BTL presents

 

Tsukihime short story for New-year greeting

 

Seeing sight at the New-year’s night

 

Prorogue Each ambition

 

「明けましておめでとうございます、兄さん。」

遠野家の新年は厳かに明ける。

「ああ、おめでとう秋葉。今年も宜しく。」

和室のない本邸の替わりに、離れの和室で正座して向かい合い、新年の挨拶を交わす秋葉と志貴。琥珀と翡翠も珍しく晴れ着で各々の主人の傍らに控えている。

「…ところで、兄さん。」

気のせいか、秋葉の笑顔に青筋が浮かび、つつましく重ねられた両手も何かしらせわしなく動いている。

「ああ…。」

志貴はというと、何処となくそわそわした様子で、忙しく視線を動かしている。

「…気付いているわね…?琥珀・翡翠、貴方達も…。」

『……。』

翡翠がいつもの無表情で、琥珀は何処となく可笑しそうな顔で頷く。

「全く…。」

やれやれ、と言った風情で、秋葉はやおら立ち上がり、天井を見上げる。と、次の瞬間秋葉の長髪が緋に染まり、

「新年早々、なに覗いているんですかっ、貴方達は!!」

次の瞬間、天井の一部が落ちてきたのはきっと建物が老朽化していたんだ、決して秋葉の大喝のせいではない…。志貴はそう思おうとした。

 

「…全く、こっちだって新年早々怒鳴りたくは無いんですよ?」

天井から落ちてきて、完全に目を回して重なっているアルクェイドとシエルを前に、刺々しく言い放つ秋葉。

「あいたた…、だったら怒鳴らないで頂戴よー、妹。」

秋葉の声に、先に目を覚ましたアルクェイドがそう返す。

「だったら、堂々と玄関から入ってきてください。確かに貴方のことは好きではありませんが来客としていらしたら無下には扱いませんから。」

多少、秋葉の声が落ち着いてくる。既に妹呼ばわりは無視のようだ。

「わ、わたしはこのあーぱー吸血鬼を追いかけてきたら、偶然ここに辿り付いた訳で…その…ついでに遠野君のところに遊びにきたというわけじゃ…。

あれこれと言い訳がましいことを並べ立てるシエルが、いつに無く険のある秋葉の視線を浴びて、だんだん声のトーンが落ちていき、遂には黙り込んでしまう。

「まあまあ…この二人も悪気があったわけじゃないんだからさ、正月に免じて一つこのくらいで勘弁してやろうよ。な、秋葉?」

そう取り成す志貴を一瞬、ぎんっ!と睨んで身構えさせた秋葉だったが、すぐ視線を柔らかくして、

「…そうですね、こちらも少々大人気なかったかと思います。」

憮然としながらも、とりあえず矛先を収める。

「…そういえば、御二方は何時頃から敷地内にいらしたのですか?」

詰る代わりにそう問い掛ける。

「うーん、昨日の日没辺りからかな?」

「私も同じくらいですね…。」

それを聞いた秋葉が、溜め息一つついて、

「はあ…それでしたら御二方を暫くこの屋敷からお出しするわけにはいきませんね。」

『…………。』

たっぷり二分間、アルクェイドとシエルが絶句した後、

『え…ええええええええっ!?』

叫び声も見事にハモった。

 

「…ですので、新年初日は、完全に外界との接触を絶って、その日の初夢に影響が出ないようにするわけです。」

長々と続いた秋葉の説明がやっと終わった。要は遠野家では初夢のイメージでその年一年の運勢を暗示するということ、そして純粋に占うため、夢に影響されそうな事物とは一月一日の一日間は外界の接触を立ち、それは来訪者としても例外ではないということだった。

「でもさー妹、あたし夢占いなんてしたこと無いんだけど。」

アルクェイドが首を傾げてそう言うとシエルも、

「そうですね、私もした事はありません。」

「心配要りません、あくまで自己の内面的な暗示ですから、自分でどんなことを感じたかでいいのです。」

さらっと返す秋葉に、シエルが、

「でも秋葉さん。その仰りようだと、ご自身余り信じていないようですが?」

「そうですね、あまりに非合理的だと思いますのでね、占いならもうちょっと条件付けを厳密にすべきですし。」

「妹ー、だったらこんなこと続ける意味無いんじゃないの?」

そのアルクェイドの台詞に、秋葉が唇を「へ」の字に曲げて胸を反り返らせ、

「そういう無駄なことの積み重ねで、人間社会は成り立っているわけです。貴女も今現在ここにいるのでしたら、当方の習慣に従っていただきます。」

「へーい。」

不承不承ながら、アルクェイドも、納得したらしい。

「それじゃ琥珀、皆さんにブランデー差し上げて頂戴。あとアルクェイドさんとシエル先輩には、客用の寝室を用意させます。翡翠、お願いね。」

「はい。」

「畏まりました。」

そう言って使用人二人が退出していく。その他の面々が寝支度を整えに移動を開始するのを見つつ、志貴が誰ともなしに言った。

「みんな、言い夢見られるといいね。」

 

―――誰も気付かなかったが、その志貴の声に反応したものがいた。それは黒い影を残しつつ、器用に台所の食器棚に登ると。酒瓶を抱えて戻ってくる琥珀に気付かれないように天井へと登っていった。

 

Chapter 1 Alcueid

 

「わー!海だー海だー!おっきーい!!」

波打ち際で波と戯れながら、アルクェイドが歓声を上げる。志貴と一緒にはるばる沖縄近くにある遠野家のプライベートビーチに、志貴がアルクェイドを誘ったのだ。初めて見る亜熱帯の海を見て、はしゃぎまくるアルクェイド。

「ね!ね!コレってエメラルドグリーンって言うんだよね、初めて見たよー!」

見るもの全てにいちいち歓声で応えるアルクェイドの側に志貴が近づいて、

「どーだ?初めての海の感想は?」

「うん!最高!」

そう叫んだアルクェイド、少し沈んだ声で、

「わたしが生まれた800年前でも…この海は今と変わらずにあったんだよね…。」

「そうだな…。」

「少し視線を移せば見えたものを、今まで見れなかったのか…、あーあ、なんか800年損した気分。」

それを聞いた志貴、アルクェイドの肩に手を回し、自分の側に引き寄せる。

「志貴…?」

「だったらさ、今からでも遅くないさ、800年分俺と一緒に取り返そうぜ。な、アルク?」

それを聞いたアルクェイド、弾けるような笑顔で、こう返事を返した。

「うん!」

 

Chapter 2 Ciel

 

「先輩や、夕飯が出来たぞ。」

キッチンで盛り付けを済ませた老人が、リビングに向かって声をかける。

「あら、やですよ志貴君。この年になって未だに“先輩”じゃ。」

そう言ってダイニングに入ってきたのは、ヨーロッパ系だろうか、何欧風の風貌をした老婦人だった。

「あはは、先輩だって未だに俺のこと、君付けじゃないか。それより、今日はカレーだぞ。」

それを聞いた老婦人の顔がほころぶ、

「あらあら、嬉しいですね。志貴君まだボケてませんね、私の誕生日覚えててくれたなんて。」

そういって、その老婦人は老人の顔をじっと見る。

「?何か付いとるかの?」

「いいえ〜、御互い老けたと思いましてね。」

そういって、半分ほど白髪が混じった青みがかかった髪を梳きあげる。

「あたりまえじゃ、もう喜寿過ぎたじゃろうが。」

「ふふっ、そうですね。」

そう言って老婦人は老人に向かって微笑みかける。

「老けるのは嫌かの?」

そう聞いた老人――志貴――の言葉に老婦人――シエル――は首を振って、

「いいえ…かえって嬉しいですね。志貴君と同じ年を重ねられますから…。」

そう言ってシエルは、本当に幸せそうに柔らかな微笑を浮かべた。

 

Chapter 3 Akiha

 

「お綺麗ですよ、秋葉さま。」

着付けをしつつ、琥珀がそう声をかける。秋葉はそれには答えない…というより、いつもの秋葉とは考えられないくらいガチガチになってしまっている。

「…秋葉さま?」

「…はっ!!」

何度も呼びかけられて、やっと我に返る。着付けられている白無垢と、頬の朱の対比が映える。

「もう、志貴さんとの一生に一度の晴れ舞台ですよ?あがってしまって何がなんだか解らないうちに終わってしまったのでは、悔やんでも悔やみきれませんよ?」

「…わ、分かってます…!琥珀に言われるまでもありません!」

そう突っ張りつつも、心拍数が普段の数倍早くなっているのを感じる。

「それにしても、良かったですね。志貴さんの七夜姓への復姓が認められて。

「そうね…おかげでこうして堂々と結婚できるんですものね…。」

やっと着付けが終わった秋葉。落ち着かない様子で立ち上がる。

「秋葉さま、まだ式の時間にはまだ早いですよ?」

琥珀がそう窘めるが、秋葉はもう止まらない。

「解ってます…!ちょっと兄さんの様子を見に行くだけです。」

琥珀が止める間もあらばこそ。新郎側控え室までダッシュで向かう。そして勢いよく襖を開け放つ、

「わ!秋葉!まだ時間はあるんじゃないのか…?」

「もう待てません…!」

そう言って、秋葉は硬直した志貴の懐に飛び込んでいった、

「…もう、離しません…!」

 

Chapter 4 Hisui

 

「志貴様。御弁当をお持ちしました。」

そういって、翡翠が志貴に重箱を差し出す。

「む、有難う翡翠。」

台詞とは裏腹に、やたらと気合の入った様子で重箱を受け取り、ふたを開ける志貴。

「お…サンドウィッチか…この前のリベンジかな?」

「………。」

冗談めかして聞いた志貴の言葉に、翡翠が赤面して俯く。

「ああ、ごめんごめん。では、頂きます。」

そう手を合わせてから、おもむろに一切れつまんで口に運び、咀嚼して飲み込むまでを翡翠が心配そうに眺めている。喉を鳴らして飲み込んだ志貴、暫く無言でいたが、

「…い。」

「え…?」

志貴が言った言葉が聞き取れなかった翡翠、多少怯えた様子で訊き返す。

「美味いよ、コレ。この前と比べて格段に上達してる。」

「あ…。」

翡翠に微笑んでそう言った志貴に、翡翠、破顔一笑。

「迷惑じゃなければ…また作ってくれるかい?」

そういって、翡翠の後頭部をくしゃっ、と撫でる。

「はい…!」

顔一杯に朱と笑みを広げて、翡翠がそう答えた。

 

Chapter 6 Kohaku

 

屋敷の一室から、中庭を見下ろす人影があった。

「……………。」

まだ幼いその少女の目に表れているのは、諦観だろうか。眼下で走り回る自分と同年代の少年少女の姿を、ただ何するまでも無く見下ろしている。

(…自分で決めた道なんだから…。)

年齢に似つかわない決断は、その少女の精神を徐々に苛んでいく、この屋敷に来てから受けたどんな苦痛よりも、屋敷内の同年代の子供だけで自分だけがこんなところにいなくてはならないという事実が、少女にとっては引き裂かれるような痛みを感じるものだった。

「ふう…。」

まるで人生に疲れた老人のような溜め息を漏らしたとき、

    ニャーン

ふと耳にした猫の声に、別の窓を少女が振り返った瞬間、

    がしゃーん!!

派手な音を立てて、窓ガラスが粉々に砕け散った、

「!?」

驚愕の余り、破片を踏むのも構わず窓際に駆け寄った少女の眼前に、少年の顔が現れる。

「え…?」

「君、琥珀ちゃんだろ?俺、志貴。よろしくなっ!」

そう言ってその少年はウィンク一つ、

「…あ…うん…。」

生返事しか返せない琥珀に、志貴が手を伸ばして、

「なんでそんなとこ居るのか知らないけどさー、そんなとこ居ないでこっちで遊ぼーぜ、面子が一人でも欲しかったんだ。」

「え…でもそんなことしたら槙久さまに…。」

「いーからいーから!後で俺が親父に怒られたら済むことだからさ、な?…おい、秋葉、シキ、翡翠、しっかり梯子押さえてろよー!」

そう下に向かって志貴が怒鳴ると、

「そう言いましても兄さん、下はこれで精一杯ですよー!」

「そーだぞー!早くしろよ志貴!」

「わ、私も…限界…。」

そう怒鳴り返す三人の声がする。

「わかったわかった…。さ、行こうぜ、琥珀ちゃん…いや、琥珀?」

「…うん!」

暫し逡巡した後、琥珀は笑顔でそう答えた。

 

Chapter 6 Shiki

 

「む…変な夢だな…?」

乳色の靄の中を進みながら、志貴は怪訝そうにそう言った。

「こんな夢じゃ、いい夢なんだか悪い夢なんだか…。ん?なんだありゃ。」

遥か前方に、小さな人影を認めた志貴、そこに近づいていくと、

「…レン?」

黒衣に同色のリボンを付けた少女がそこに立っていた。

「どうしたの、レン?なんか機嫌悪いようだけど。」

志貴の言う通り、レンは眉根を寄せ、口をへの字に曲げて、どう見ても上機嫌には見えない。

「…………?」

指摘を受けたレンが、首を傾げる。どうやら自分が何で機嫌が悪いのかはよく分からないらしい。

「なんかしたの…?え?みんなが良い夢見れるように操作したけど?みんなの夢の中に決まって俺が出てくるのを見ていたらこうなったって?」

こくこく。不思議そうな顔をして頷くレンを見た志貴、あまりにも可愛らしい嫉妬に思わず苦笑する。

「ああ、なるほどね。…そうだな…、」

そう言うとその場にぺたん、と座り込み、

「疲れただろ?俺の膝貸してやるからお休みよ。」

その申し出に、レンは微笑んで頷くと志貴の膝にうつ伏せに頭を乗せてすぐさま寝息を立て始めた。

 

Epilogue Lenn

 

「おはようございます、兄さん…?」

リビングに入ってきた秋葉、志貴が早々と起きだして既に暖炉に火を入れている事に、いささか驚愕したようだ。

「おはようございます…?」

「おはようございます。あれ、志貴さん今日は早いですねー。」

翡翠・琥珀の二人も、少なからず驚いているようだ。

「あれ、レンちゃんはお休みですか?」

揺り椅子に腰掛けた志貴の膝に抱かれている黒猫を見付けた琥珀が訊ねる。

「うん、昨晩は起きてたみたいだからね、みんなより少し遅れた初夢見てるんじゃないかな?」

そんなやり取りをしていると、

「あーあ、よく寝た。おはよ、志貴に妹。」

「おはようございます、皆さん。」

アルクェイドと、シエルも起き出して来た。

「どうですか皆様、良い夢はご覧になれましたか?」

翡翠がそう訊くと、みんな頷いて、

「うん、良く内容覚えてないけど、良い夢見た気がする!」

「奇遇ですね、私もそんな感じですね。」

「私も結構…琥珀・翡翠、貴方達は?」

振られた琥珀と翡翠、同時に頷いて、

「はい、なんか懐かしいような…良い夢だと思いますよ。」

「私も、夢見が良かったように思います。」

「みんな良い夢見れたようで良かったな。でも…、」

志貴はそう言って、膝元で眠っている黒猫に視線を落として、

「いま一番良い夢見てるのはコイツかもね。」

志貴がそう言ったのに反応して、一同、賛同の意味もこめてくすくす声を殺して笑う。

「な、レン?」

「んにゃ…。」

それに反応するように、レンが小さな寝息を立てた。

 

The end

 

ご挨拶

あけましておめでとうございます。BTLです。昨年の年賀メールはKanonだったので、今年はAirかな…?とも思ったのですが、今年もっともインパクトを受けたゲームということで“月姫”をネタに使わせていただきました。本当はレンにもうちょっと働いてもらって(苦笑)、さっちんや有彦、晶ちゃんやななこなんかの初夢もカバーしたかったのですが、彼らの初夢までデザインするのは非常に困難だったので、月姫本編のメインヒロインである5人に限定させていただきました。まあ夢の内容については…私の主観結構入ってますので、違和感を感じられても大目に見て頂けると幸いです。

ではでは、お好きなように御使いください。

BTL

 




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