〜前回までのあらすじ〜

今回は前回のお話から続いているの。だから私、上月澪があらすじを説明するの。

前回の登場キャラクター、猫耳、猫尻尾付きの美少女『鈴』ちゃん。

彼女は猫又と呼ばれる『夜の者(ナイトメア)』と人間とのハーフなの。

耳と尻尾を隠して人間の中でひっそり生活していたんだけどナイトメアの天敵、

『警視庁特別資料室』の刑事に見付かって殺されかけるの。

でも突然、不思議な闇に包まれた鈴ちゃんは刑事から逃れて姿を消したの。

一方、主人公とヒロインの北川さんと美汐ちゃんは夜道で急にこの鈴ちゃんに

襲われたの。北川さんはすぐに鈴ちゃんを気絶させたんだけどそのまま放っておく

訳にも行かないから自分の家に連れて行ったの。

鈴ちゃんは目を覚ましたとき刑事に追われていた時から先の記憶を失っていたの…

事情を聞いて同情した美汐ちゃんと鈴ちゃんのお願いで北川さんが暫く

鈴ちゃんの面倒を見ることになったの。

北川さんは鈴ちゃんを守るための手続きをする間に記憶喪失の事が気になって

家のみさき先輩を呼んで記憶を見て貰うことにしたの。

えっと…ここまでが前回のあらすじなの。それでは本編の始まりなの♪

…………………………………………………………

ミッドナイト・マスター"J" 第3夜『闇の中で輝くもの…』



>潤

北川「はい…本人は俺が見る限りでは無害です。…ええ、暫くは助手みたいなことを

やって貰うつもりです


のっけからだが今、俺はある人に電話をかけていた。

その人物は俺の恩人の一人であり、家の事務所のお得意様、そして俺の親友の

相沢祐一の師匠でもある人物。世界最高の能力を持つ、悪魔召喚師(デビルサマナー)

『葛葉キョウジ』という人物である。

キョウジ『ああ、登録に関しては全然構わないよ。たいした手間もかからないしね。

君が信用できるというなら僕としても十分信用に足る人物だろうしね。


北川「『鈴』ちゃん自体は良い子なんです。ただ気になるの出会い頭に襲ってきた

時の血に飢えた野獣のような目とその記憶が彼女から欠落している事なんです。


あの時の鈴ちゃんの目は尋常なものではなかった…まるで何かに操られているかのような

冷たく、危険な目…実力差がモノをいって助かったがもしもう少しでも彼女が

強かったら…俺は彼女を殺さず取り押さえられた自信は無い…

キョウジ『操られていた可能性が有るわけか…君の事だ罠の可能性も考えた上で

連れて来たんだろうね。


電話の向こうで苦笑する声が聞こえる…ああ…笑っている姿が目に浮かぶようだ…

俺ははっきり言ってこの人が苦手である。年齢から言えば俺のほうが数倍も

生きているのに何故かこの人には軽くあしらわれてしまう…

潤「笑い話じゃないですよ…おかげで美汐がずっと不機嫌でこっちはまいってるんですから…

そう…何故かは分からないが鈴ちゃんが来てから美汐がずっと不機嫌なのである。

鈴ちゃんと仲が悪いのかというとそうでもなく、台所を覗いたときは

二人で仲良く話をしていた。俺だけが針のむしろに座らされているような感覚をうける。

キョウジ『まぁそれはそうだろうね…美汐ちゃんも大変だな。

また笑いの波動が電話の向こうから発せられる…本当に笑い事じゃないんですけど…(汗)

キョウジ『手続きに関してはちょっと異例の手続きをするかもしれないよ。

特別資料室の人間が動いているとなると早く手を打たないと本気で抹殺されるからね…


そう…鈴ちゃんの話では鈴ちゃんを追っていたのは特別資料室の刑事…それも

室長である聖を除けば最強の人間でもある『国崎往人』警視…

異例の若さで昇進、資料室付きに任じられた彼だがその能力は入室当時既に

室内で3本の指に入るほどのものであった。

情無き心でナイトメアを追い詰めるその様はまるで氷の刃のようだと畏怖されている。

完全な登録が済んで証明書が発行されるまで約半年。しかし証明書の発行までいかなくても

登録手続きをしてしまえば登録待ち期間は受理、不受理を問わず安全が確保されるのが

一般的な登録の流れである。もちろん、不受理なら正式に言い渡された後にまた

狙われるはめになるのだが…

手続き自体は俺が監察官を請け負えば2〜3日でおりる。

だがそれは同時にその2〜3日の間なら彼らには鈴ちゃんを抹殺する権利が

与えられているのだ…

キョウジ『とにかくなるべく急いで申請しておくからその間、君はその子から

目を離さないように。それと念のため、祐一をいつでも呼び出せるように

スタンバイさせておくから必要ならすぐに連絡をするんだよ?


潤「ありがとうございます。お礼は後で必ず…

キョウジ『気にしなくても良いよ。君にはいつも苦労をかけてるからね。

これくらいならいつでも請け負うよ。


キョウジさんはそう笑って話を打ち切った…

潤「これで打てる手は全て打った…後はみさきさん待ちか…

鬼が出るか蛇が出るか…どうなることやら…


俺はそう呟くと疲れた表情で椅子に倒れこんだ…

………………………………………………

手続き等で時間を取られ気付けば既に時刻はPM6:00…

そろそろみさきさんがやってくる筈である。

ピンポーン♪

っと噂をすれば…

美汐「はい、あっ…みさきさん、お久しぶりです。どうぞ上がってください。

対応に出たのは美汐。俺もすぐに迎いに出る。

潤「いらっしゃい、みさきさん。どうもすみません…わざわざ来て貰って…」

俺の方が遥かに年長にも関わらず、何故か敬語を使ってしまう人間が何人か存在する。

このみさきさんもその内の一人だ。

みさき「気にしないでよ。久しぶりに二人の顔も見たかったしね。

他の皆も来たかったみたいだけど…舞ちゃんは子供から目を離せないし、佐祐理さんも

自分と舞さんの子供に付きっきりだからね…祐一君が『構ってくれない…』っていじけてたよ。


そう言って微笑むみさきさん。その姿はとても一児の母とは思えないほど可憐であった。

美汐「祐介君は元気ですか?

祐介君とは『相沢祐介』、相沢の長男でみさきさんの子供である。

美汐はこれでかなり子供好きで、以前、相沢の家に行った時に祐介君を抱かせて貰って

いたく喜んでいた。

みさき「元気だよ。さすがに祐一君の子供だね。運動神経が良いから動き回って

大変だよ。


そんな苦労さえも嬉しそうに話す姿は女性の中にある母性の強さを感じさせる。

潤「…っと、紹介しないといけないんだったな…鈴ちゃん、こっちに来てくれ!!」

鈴「ふみー。はいですー。

トタトタと足音を鳴らせて走ってくる鈴ちゃん。

ゴスッ!!

……物凄く痛そうな音が聞こえたのは恐らく壁に激突したと思われる…

ガチャッ…目に涙を浮かべてぎこちない動きで部屋に入ってくる鈴ちゃん。

鈴「ふみゅ…痛いです…

潤「(汗)…紹介するよ。この子がこんど家の助手をやって貰うことになった鈴ちゃん。

鈴ちゃん、こちらが俺の親友の嫁さんのみさきさんだよ。


みさき「初めまして鈴ちゃん。川名みさきっていうんだよ。よろしくね。

鈴「ふみゅ…鈴…です…

ちょっと赤くなってもじもじしてる鈴ちゃん。…人見知りが激しいんだろうか…?

………あっ…もしかして………

潤「大丈夫だよ鈴ちゃん。みさきさんには君のことは教えてあるし、

君がナイトメアのハーフだからって差別したりしないよ。


そう…鈴ちゃんは頭に帽子を被って耳を隠している…つまり『ばれないようにしている』のだ。

長年、そうやって隠すことを生活の一部にしてきた彼女は人間と触れ合うことに

極端に臆病なのだ…いつ手のひらを返されるともしれないから…

みさき「…鈴ちゃん。私のお友達にも人間じゃない女の子がいるんだよ。

でもそんな彼女でも好きだって言ってくれる人間は沢山いるよ。

何故だと思う?それはね…彼女が自分から人間に触れていこうと努力したからだよ。

自分が心を開かない限り周りの人間はあなたの中に踏み込むことができないんだよ。

だからあなたの事が分からないで余計に怖くなるんだよ…

自分にとって未知のもの程怖いものはないからね。

少しだけ勇気を出して自分から踏み出してみようよ。そうすればきっとあなたを

受け入れてくれる人は必ずいる筈だよ。


そう優しく言って鈴ちゃんの瞳を見つめているみさきさん。

鈴ちゃんは暫く迷っていたようだけどやがて震える手を少しずつ伸ばして呟いた。

鈴「……よ、よろしくですぅ…

みさき「うん、よろしくね鈴ちゃん。

ニッコリ笑って鈴ちゃんの手を握るみさきさん。鈴ちゃんは最初はびっくりした顔を見せていたが

不意に顔をぐしゃぐしゃにしてみさきさんにすがりついて泣き出してしまった…

そんな鈴ちゃんの背中を優しく抱きとめるみさきさん…

そんな人間的な器の大きさを持った女性を俺と美汐は尊敬の目で見つめるのであった…

……………

みさき「落ち着いた?

ひとしきり泣き続けた後、鈴ちゃんは照れたように笑って頷いた。

みさき「今度家にも遊びにおいでよ。皆もきっとあなたの事を気に入ってくれるよ。

鈴「必ず行くです♪

嬉しそうに頷く鈴ちゃん。

みさき「うん、楽しみに待ってるよ。えっと…それじゃあ本題に入ろうか北川君。

真剣な瞳を向けられて慌てて姿勢を整える俺。

潤「はい…鈴ちゃん。実はみさきさんには君の失われた記憶を取り戻すために

来て貰ったんだよ。会ったときの君は別人みたいだったからね。

ただこの作業はみさき先輩が君の記憶を覗くことになるんだ。

もちろん君にもプライバシーがある。嫌なら強制はしないよ。どうする?


俺と美汐、みさきさんの視線が鈴ちゃんに集中する。

鈴ちゃんはしばし考えていたがすぐに笑顔で答えを出した。

鈴「ふみゅ…お願いするの。みさきさんなら見られても良いし、ここにいる為には

見てもらった方が良いんだよね?


潤「いや…別に気にしなくてもいいけど…良いのかい?

あっさりと頷く鈴ちゃん。どうやら本当に気にしてはいないらしい。

みさき「分かったよ…それじゃ早く終わらせようね。私お腹すいてきたよ…

ちょっと悲しそうに呟くみさきさんに俺たちは全員苦笑を浮かべるのであった…

…………

鈴ちゃんをみさきさんの魔法で眠ってもらってソファーに横たわらせる。

精神に入る魔法は相手の意識があると危険なのである。だから眠らせるか気絶させてから

入ることが多い。鈴ちゃんの額に手をかざして精神を集中させるみさきさん。

みさき「それじゃあ行って来るね。

潤「お願いします。

美汐「気をつけてくださいね。

俺たちに笑って答えるみさきさん。だがその直後、眠るようにソファーに倒れこんだ。

鈴ちゃんの精神に潜行を開始したのだろう。

俺たちは何もできないのでみさきさんの帰還をただ待つのみだった…

……………

>S

みさき「そろそろだね…何があったのか見せて貰うよ…

記憶は精神の深層に刻まれた記録である。人は記憶を思い出せないことを『忘れた』というが

記録として刻まれた記憶はある種の衝撃を受けない限り消えることなく残りつづける。

我々は単純にその記録までアクセスできない為に思い出せないに過ぎない。

みさきはサイコダイブで精神の一番深いところまで潜り、直接記録に触れようと

しているのだ…

みさきの周りは薄桃色の靄に包まれた奇妙な空間である。

精神の風景は人の数だけ存在する。性格によって似たような傾向は見られるが

同じモノは一つとして存在しない。

みさき「鈴ちゃんは純粋だね…綺麗な桃色だよ。

花が咲き乱れる地面に手を付いているみさき。咲いている花は鈴の記憶の形である。

地面に触れている手から記憶にアクセスするみさき。潤から聞いている鈴の

最後の記憶…刑事に追われている記憶を探しているのである。

みさき「あった…ここから先だね…

みさきが見ているのは追われている最中の鈴の姿。黒い霧に覆われて消える鈴。

みさき「えっ!?

突然急激に上昇を始める自分の身体に驚愕するみさき。精神の接続が切断されたからである。

しかしこの接続は鈴が目覚めない限り切れることは無い。

鈴にかけた魔法はみさきが解くまで眠りつづける魔法である。鈴の目が覚める筈がないのだ…

地面に付いた手が離れ、記憶の流れが途切れる…

最後に見た鈴の記憶は冷たく笑う女性の口元だった…

………………

みさき「きゃっ…!!

弾き出されるように身体に戻るみさき。眩暈のような感覚が襲ってくる…

精神の接続を強制的に切断された後遺症である。

みさき「鈴ちゃん…?

ソファーで寝ていた鈴の方に顔を向けるみさき。その視線の先にいる鈴は

みさきの知る姿とは似ても似つかなかった…

すらりと伸びた肢体…妖艶な微笑を浮かべる顔…目だけはまるで獲物を前にした

肉食獣のように輝いている…

どこか面影を残してはいるがこれではほとんど別人である…

鈴「しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

突然みさきに襲い掛かる鈴。とっさに避けようとするが眩暈のせいで感覚が

狂って避けきれない。

ザシュッ…!!!

みさき「くっ……!!

みさきの肩に深々と突き刺さる鈴の爪…

潤「みさきさん!?

美汐「どうしたんですか!?

別の部屋でみさきの食事を用意していた美汐と潤が部屋に飛び込んでくる。

部屋の中には肩から血を流すみさきと爪に付いた血を舐め取る鈴の姿…

美汐「鈴ちゃん!?

潤「美汐っ!!今の鈴ちゃんはっ―――

鈴に駆け寄る美汐。潤の静止は僅かに間に合わない…

美汐「鈴ちゃん…一体どうしたというの…?

美汐の呼びかけにニタリと笑った鈴はその鋭い爪で美汐の胸を切り裂いた…

ズブッ……

美汐「………あっ………

力無く崩れ落ちる美汐。胸から溢れ出る血が床に血溜りを作る…

みさき「美汐ちゃんっ!?

潤「美汐っ!!!………くっ…!!

指先を噛み千切って自らの血で鞭を創って振るうが昨晩とは比べ物にならない

速度でそれを避けて窓を破って外に飛び出していく。

潤「美汐…大丈夫か!?

みさき「回復魔法を…!!

みさきが美汐に駆け寄って抱き起こす。傷は深く、傷口から溢れ出てくる

血がみさきの服を汚す。

傷の酷さに僅かに顔をしかめてながらもすぐに回復魔法をかけるみさき。

傷はすぐに塞がるが出血が酷いので体力はすぐには回復できない…

俺はキッチンから血液パックを持ってきて美汐の口に注いだ。

紙のように白かった顔色が僅かに赤みを帯びてくる。これなら暫く休めば

回復する筈である。うっすらと目をあけた美汐が小さな声で呟く…

美汐「…行ってください…私は大丈夫です。鈴ちゃんをお願いします…

みさき「美汐ちゃんは私が診ているから北川君は鈴ちゃんを追いかけて。

潤「…分かった。すぐに戻るからおとなしくしてるんだぞ?

美汐が頷くのを確認してから潤も窓から身を躍らせた…

シュタッ…綺麗に地面に着地する。だがもはや鈴の姿はどこにも見えない。

潤「ならば…『我に地を走る姿を与えよ!!』

吸血鬼の取る3つの姿…人型、蝙蝠、そして黒い犬…

地を走る姿とは犬の事…普通の犬の数倍の体積を持つ黒い犬に姿を

変えた潤は鈴の爪に残る美汐の血液の匂いを目印に闇の中を走り出した…

〜to the next nightmare〜

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どうも初めての方には初めまして。そうでない方にはお待たせいたしました。

作者のスタンピードです。

今回は桜香さんのページの開設記念にこのお話を贈らせて頂きました。

ちょっと遅くなってしまったことをお詫びします…(ぺコリ)

さて、今回のお話も前回に引き続き次の話に続いています。

鈴編の3部作の2作目が今回に当たります。

戦闘らしい戦闘は無いし、余り物語りも進行していないのが痛いです…(滝汗)

初めての前回のお話を読まないと全く話が通じないと思います。

全話リンクが私のページ、鍵と戦術の王国にございますので宜しかったら

読んでやってください。

それでは最後に桜香さんのページのこれからの発展を祈って…

                           2001/July/28 スタンピード





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