god loves his children.(神は神の子らを愛す。)

――じゃあそうじゃない子どもたちは?





「母さん、母 さん……」

オレはひたすらしげみの中を走った。
木の枝が体のあちこちに当たっていたい。
だけどそんなこと気にしているば合じゃなかった。

母さんがいなくなってしまった。

オレをのこして…どこかに行ってしまった
でも、その『どこか』がわからない。

「母さん、母さん……」

目がしらがあつい。
いつまでもそばにいてくれるって言ってたのに…
どうしてオレをおいていったんだよ?
ちゃんとこんどこそ上手く人形をうごかしてみせる。
母さんみたいにちゅう返りとかもできるようにガンバル。
だから
だから…

オレをもうひとりにしないで。


山の中のしげみの中をぬけ出る。
青。
いっしゅん、気を失いそうになった。

目の前には目まいがするくらいじゅんすいな青い空。
むげんに広がる青。
果てしなく広がる空。
海とのきょう界せんが分からないくらいにきれいな空。

そこではじめて気づく

オレはひとりになったんだって

この空の下で
オレはたったひとりだってことに。

せつなさ。
それが体中に走った。

母さん。
オレのたった一人の家ぞく。
「…どこにいるんだよ?」
むいしきににぎっていた人形をかた手に、オレはまるでそれに話しかけるがごとくつぶやいた。
自分でもおどろくくらいほそく、かわいた声で。




PARANOID ANDROID





夢を見た。

悲しい夢を見た。

夢の中で俺は一人の女の子を探していた。
俺のからだは今と比べあまりにも弱々かった。(それとも幼い?)

都会の交差点。

ここには人間はいない。
『何か』の固まりばかりが無秩序に流動している。
蟻、人間の姿をした蟲達。
だれもその無気味さに気付いていない。

俺はそいつの名前を喉が潰れるくらい大きな声で叫ぶ。
群集はその声がまるで聞こえてないかの如く無言で蠢く。
そう、まるで俺だけこの世界とずれた場所にいるように。
だが卑屈な視線を感じずにはいられない。
ここに俺はいるけど誰も認めてくれていない世界

狂ってるよ

絶叫。

I'm not here! This isn't real!!

ぼくはここにいない これはげんじつじゃない


そして目の前に広がる防波堤、
その上を見上げる。それはあまりにも高く険しい。
この世界と向こう側の境界線。
この俺を挫折するために作られた壁。
堤防の上には幼い天使。
小さな羽の生えた女の子。
髪は太陽の光を浴びて金色に輝いている。白いワンピース姿が可愛らしく、愛らしかった。


「観鈴っ!」
「あっ、往人さん!」


俺は彼女に向かって手を伸ばす。
だが届かなかった
どんなに手を伸ばしても
どんなに背伸びをしても
彼女に触れることはかなわなかった。

「あっ…」
風が吹いた。
彼女の白く繊細で華奢な体はいとも簡単に吹き飛ばされてしまった。
防波堤の”向こう側”へと流されていく少女

そっちに行っちゃダメだ!

声に出して叫ぼうとした
だが風はあまりにも強過ぎて俺の声をかき消してしまう

行かないで!
お願いだから…
彼女を連れ去らないで…
俺はあいつの側にずっといたいんだ
一緒に生きていきたいんだ

お願いだから逝かないで……

祈りとも叫びともつかない声で俺は願う。



ぼくはここにいない これはげんじつじゃない……





青。
焼きつけるような光が俺を夢から現実へと誘う。
「……ぅ」
眼を開けてみる
眩しい。
そうだ…。俺はこの堤防で観鈴を待っていたんだ。
しかし…暑い
しかも首が痛い。
よくこんなところで眠れたもんだ。
そして…重い。
何かがのしかかっている。
(子泣き爺か…?)
隣を見てみる
「観鈴……?」
そこには俺に寄り添うように観鈴が眠っていた。
俺の服の袖を掴んだまま、小さな寝息をかいている。
だがやはり暑いのか頬がほんの少し紅潮している。
俺の肩にもたれている彼女の頭をそっと撫でる。
指に彼女のやららかい髪の毛が絡みつく。
汗ばんでいる髪の毛はそのまま俺の指にへばりつく。
「…………ふゅ」
(…まるで犬みたいだな)

静寂。
白い風の音と、青い波が奏でる

ふと戸惑う瞬間がある。
こうやって観鈴と二人っきりでいるとき、安らぎを感じている自分がいる。
このままでいたいと欲する自分がいる。
だけど俺はそんな自分に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
今まで人を信じたことも愛したこともないのに
なのに俺は温もりとか人の暖かさなんかをこいつに求めてる。
こんな御都合主義な自分に嫌気をささずにはいられなかった。

甘えるなよ。
独りで生きていかなくちゃならないんだ。今も、そしてこれからも


「あ………」
観鈴が目を覚ます
「あれ……?」
まだ寝ぼけているのか、状況が把握できてないようだ。
「よっ、」
とりあえず声をかける
「往人さん……?」
観鈴がこちらを振り向く。
「おはよ……」
ゴンっ
観鈴がこっちに向かってヘッドバット…、もといお目覚めのの挨拶をする
「…がお……痛い」
「…お前の………せいだろ」
ちなみにこっちもかなり痛い。
お互い頭を抱え込む。
でも心の奥の中でそれがどことなく可笑しかった。


「大丈夫か」
「……たぶん」
観鈴はまだ頭を押さえている。
だがこっちも完全に痛みがなくなったわけじゃなかった。
「……バカだな。お前は」
「うん…」
俺は観鈴の頭の打ちつけたところを撫でてやった。
観鈴は目を細めて喜ぶ。
「…しかしお互いよくこんな暑いところで寝れたな」
「うん。でも、風が吹いていたから……」
確かにこの場所はよく風が吹きつけてくる
強くて、やさしくて、そして乾いた風が。


「ねえ往人さん……」
「………どうした?」
「あのね、また夢を見たの」
「…空の夢か?」
「うん……でもちょっと違ってた」
「違って…どう?」
「空の下からね、また陸が見えたの」
「そしてね、そこから男の子が見えたの。小さな男の子」
「それでねその男の子は泣いてたの。とても悲しそうだった」
「………」

「たぶんその子はね、悲しいお別れがあったんだと思う。世界で一番大切な人とのお別れ」

優しい表情で観鈴は話し続ける。だが逆にそれがかえって彼女があまりにも儚くみえて仕方がなかった。

「だけどね一番悲しかったのは私はその子に何もすることができなかった……」

観鈴の表情の陰りがどんどん深くなっていく。

「一人じゃないよ、って言いたかった……だけど、…私はただ見てるだけだった。あんなに泣いていたのに…あんなに悲しそうにしていたのに…私はその子の涙を拭うことも、慰めることもできなかった…ほんとに、ただ、私は…見てる…だけで……」

あまりにも泣きそうな顔で観鈴が語り続けていた。
俺はそれに耐えられなかった。
……いや、違う。
俺が耐えられなかったのは別のことか……
だって、そいつは……

「観鈴!」
「えっ…?どうしたの往人さん」
つい大声を出してしまった。
「もういい」
「?」
「…いいんだ」
「大丈夫さ…きっとそいつは今頃、自由気ままに生きているさ」
「…………ぇ?」
「…どっかに居候してて、ただ飯なんか食らってさ」
「……往人、さん?」
「だから、お前が悲しむ必要なんて一つもない」
「……………うん」
そう、だから悲しい顔をしないでくれ。
お前は笑っていて欲しい。
…何故だかはまだ上手く言えないけれど
どうか笑顔のままでいて欲しい。
「帰るぞ」
「あ、…うん」
「腹も減ったしな」
「それじゃ一緒にジュースも買いにいこっ」
「……それだけは却下だ」
「う〜…。どうしてそんなに嫌がるのかな…おいしいのに」
「…俺は日本人だ。だからお茶の方が好きなんだ」
「それじゃ、あつあつのお茶いれてあげるねー」
「いや…、できるなら冷え冷え麦茶のほうがいい…」

俺は軽く観鈴の手を握る。
そして俺達は道を歩いていく。
通りなれたこの路地を。
『二人で一緒に』


そうだろ?




忘れていた感情

恐れることなんて何も無いんだ
疑うことなんて何も無いんだ
だから
だから
だから
歩いていこう、この道にそって。
歩いていこう、この道を越えて。


僕たちはそのとき生きていました。
この光り輝く空の下で。
やさしさに満ちた大気の中で。


僕たちは生きていました


WHAT CAN YOU FEEL???






*********************
あとがき
psyko(サイコ)です。
何となく書いてみた観鈴あんーど往人さんSS。
あらためて見てみるとわけわからん(笑)

タイトルの元ネタはまーたRADIO HEADの「OK COMPUTER」に収録されている曲名から来ています。
直訳すれば「妄想症のアンドロイド」わけわかんねー(笑)
他にもタイトルを一応考えていたんですけどね…
ただ往人の回想シーンから夢の中のシーンはこの曲からインスピレーションを受けています。
この曲のメロディを聴きながら読めばより味わい深いものになるかなと。
レンタルショップで見かけたら是非、是非ー(勧誘するな

とにかく感じてください。心の奥底から湧き出るその感情を。



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