Outroduction

 良く晴れた博麗神社の昼下がり。そこに二人の少女の姿があった。

一人は陽気な気分で鼻歌などを口ずさみながら、竹箒で庭の掃き掃除をする、紅白の衣装に身を包んだ巫女。

そしてもう一人は…。

「これって…すっごく不公平だわ…」

 日が陰になる縁側で、ここまで刺してきた日傘を横に置き、憮然とした表情で巫女の掃除風景を見つめる吸血鬼。レミリア・スカーレット。

「不公平って…何がよ?」

 レミリアがぼそりと漏らした独り言をそれでも聞きつけ、巫女…博麗霊夢は振り返って問う。

その幼き姿の吸血鬼を見つめる瞳は、彼女と同じように紅く。そして言葉を紡いだ口から見えるのは、確かに長く伸びた二本の犬歯。そして…肩胛骨から真っ直ぐに伸びた、一対の皮翼の翼。

 あの日…霊夢は人の一生を終え、生まれ変わった。レミリアの牙をその身に完全に受け入れ、同族となった。レミリアと同じ吸血鬼に…。

最強の身体能力と魔力を持ちながら、なぜか弱点の多い夜の帝王。

人の血を吸い、川を渡れず、大蒜の臭いもダメで、鯛の頭なんて以ての外。

だが………。

「こんな良いお天気に、なに不満そうな顔してるのよレミィ?」

「それが不公平だって言ってるのよ…はぁ…。」

 レミリアは凄く疲れたように、肩でため息をついた。

そう…吸血鬼となった霊夢は、なぜか陽にあたっても平気なようなのだ。

原因はパチュリー達に調べて貰ったが全く分からない。

『彼女のその類い希なる霊力が、陽が与える肉体への影響を遮断しているのか。はたまた博麗の巫女としての血統が吸血鬼としての弱点を克服したか…。でも調べたデータを見る限り、霊夢は完全にあなたと同じ体質。完全な吸血鬼よ…』

 それだけ言って、パチュリーは肩を竦め首を振った。お手上げだと言わんばかりに。

そんな訳で霊夢は今でもこの神社を離れることなく、大結界の管理人としての生を送っている。

レミリアの方はと言うと、自分が完膚無きまでに破壊しつくした寝室が治るまで(というより新たに作り直すまで)、ここに通い詰めだ。

もちろん紅魔館には、あまっている部屋など幾らでもあるし、わざわざ昼間からレミリアが来る必要など全くないのだが。

陽を弱点としな吸血鬼、博麗霊夢。そんな彼女を見てレミリアは一つ思うことがある。

もし今の霊夢に自分が血を吸われて、死んだとしたらどうなるだろう。もしかすると自分も陽を弱点としない吸血鬼に生まれ変わることが出来るのではないか?

だがレミリアは自分の考えに、直ぐに首を振った。

吸血鬼が血を吸われて、再び吸血鬼になるなんてあまりにも荒唐無稽すぎる。

(そのそも吸血鬼が血を吸われて、本当に死ぬのか疑問だわ…)

 そんな前例のない危険な賭けに出るわけには行かなかった。

「ホント…どうして霊夢だけ、平気なのかしらね?」

 今までに何度思ったか分からない疑問を、レミリアは憮然と呟く。

「あら…そんなの決まってるじゃない?」

「え?」

 さも当然という口調の霊夢にレミリアは、一言疑問符で返し、それに対し霊夢は悪戯っぽい笑みをいっぱいに浮かべてこう言った。

「私の寝室で…、月明かりに照らされた綺麗なあなたを…これからも永遠に見る為よ…」

「………………」

 肩をよせくすくす笑う霊夢に、レミリアは顔を真っ赤に染め、今度出来る寝室には、パチュリーに頼んで月明かりだけを取り込める魔法窓を、絶対に付けて貰うことを心に誓うのだった。

 

fin