注意書きらしきもの。
※キャラの性格がすごく変わったりしてますので、読まれる方はそれを覚悟しておいて下さい。
※視点がめちゃくちゃ移動するので混乱なさらないようにしてください。
Memory Lapse
〜序章〜 記憶の序曲
「なんで花穂ちゃんがお兄様の隣にいるのよっ!」
広いリビングに咲耶の声が響いた。そう、大好きな兄の横に花穂はいた。
その横で咲耶が大声で妹達の誰もが疑問に思っていることを叫んでいる。
今日もいつもどおり可憐を先頭に数名の妹たちがリビングに集まっている。
いつもならここでちょっとした争いが起きる。その争いの内容は、「誰が兄の隣に座るか」というものである。
だが今日は違った。いつもなら兄の隣には無邪気な笑顔で雛子が座っていたり、春歌が妄想を膨らましていたり、挙句の果てには、
「お兄様の隣は私よっ!」とかなんとか言って咲耶が無理矢理割り込んだりしているのだが…。
そんなわけで花穂は滅多な事がないと兄の隣には座れない。だが今日は兄の隣に座っていたのである。
咲耶が叫びたくなる気持ちもわからなくはない。それぐらい花穂が咲耶を押しのけて兄の隣に座っているということは珍しいのだ。
だが、事実として兄の隣には満面の笑顔の花穂が座っている。笑顔がまぶしい事この上なしである。
なんとも珍しい光景だった。可憐や衛ならともかく、ドジっ子の花穂が座っているのだから。
しかしこのままでは「なぜ花穂が?」と思う人がいるといけないので説明しておこう。(別に想像に任せてもよいのだが。)
まず今からさかのぼること数時間前…。
―数時間前―
「あ〜ぁ、竜崎先輩にまた怒られちゃったぁ〜。花穂、どうしてうまくできないのかなぁ?」
帰ってきた花穂は自分の部屋に帰るなり今日あったことを思い出していた。
先ほどまでチア部の練習に参加していた花穂はまた竜崎先輩に怒られてしまった。
竜崎先輩に怒られるのも日課に近くなってきてしまっている。
「花穂、どうすればいいのかなぁ…。お兄ちゃまだったらなんて言ってくれるかな?」
部屋にいた花穂はそんな事をぼやきながら、リビングへ行こうと階段を一段一段転ばないように気をつけて降りてゆく。
階段を踏み外したことは一度しかないが、あれはあれで結構痛かったのだった。
「あ、お兄ちゃまだぁ。お兄ちゃまぁ〜。」
リビングに下りてきた花穂は兄がいるのを見つけると、すぐに兄の近くに駆け寄ろうとした。が、
「きゃっ!」
転んでしまった。兄の所へ急ごうと走ったせいである。
一方の兄は花穂が転んだ事など全く気付いていない。花穂は立ち上がるとまた兄の所へ駆け寄っていった。
「お兄ちゃま、なにしてるの?」
花穂がたずねても兄は返事をしない。というより花穂が近くに来ている事に全く気付いていないらしい。
兄は熱心に真っ白な紙を見つめていた。花穂はもう一度呼びかけてみた。
「お兄ちゃま?」
それでも反応してくれないので、心配になって花穂は兄の顔をのぞき込んだ。と、偶然その時兄も一息つこうと思ったのだろう。
ふと顔をあげた。絶妙なタイミング。ちょうど花穂が兄の顔をのぞき込んだ時に兄も顔をあげてしまった。
二人の視線が間近でぶつかった。その距離わずか数センチ。
お互いの顔は触れ合うぐらい近くにある。相手の呼吸が分かるぐらい近くに。
一瞬時が止まったかのように思えた。その直後、二人の顔はみるみる赤く染まっていく。
「わ、ご、ごめん!花穂ちゃん。」
兄は慌てて顔をそらした。よっぽど恥ずかしかったのだろう。兄の顔は耳の先まで赤くなっている。
花穂はこんなに照れている兄の顔を見たのは初めてだった。
「あ、ううん。花穂が急にお兄ちゃまのお顔をのぞき込んだからいけないの。お兄ちゃまは気にしないで。」
花穂は火照る顔を隠すようにして言った。花穂の顔も兄同様、耳の先まで赤くなっている。
ちなみに花穂と兄はちゃんと付き合っている。とはいってもまだ1ヶ月しか経っていないが。
他の妹達はそれを知らない。だが千影だけはちゃんと知っているようだ。
彼女にだけは隠し事が通じない。最初の頃、兄と花穂は千影が他の妹達に自分達の事を言わないか心配だったが、
千影にそんな気は全くなさそうだったので、気にしないことにした。かくして今は千影には公認の仲である。
そんな付き合い始めたばかりの兄と花穂の間に沈黙が流れた。と、その沈黙に耐えられなくなったのか花穂が兄の方を向いた。
兄もそんな花穂の視線に気がついたのか、花穂の方へと視線を送る。ちょうどお互いが正面から向き合う形になった。
不思議な、それでいて心地よい感覚。でも二人の心臓は今にも破裂せんばかりに高鳴っている。
花穂は自分からゆっくりと瞳を閉じた。お互いの顔がゆっくりと近付いてゆく…。
近付いてゆく二人の顔は火照り、うっすらとピンク色に染まっている。二人の唇が重なる。
やさしく、それでいて永いくちづけ。お互いを感じる為のようなくちづけ。
唇を離してからも、兄は花穂を抱きしめて離そうとはしなかった。花穂もまた、兄の温もりを感じていた。
―数分後―
兄が花穂を解放しても、花穂は兄から離れようとはしなかった。兄の温もりを感じていたかった。
兄の顔を見つめる花穂。二人はまた、誘われるかのように永い口づけを交わした。
お互いが離れると、二人とも顔を赤くしてまたうつむいてしまった。
照れる所なんかは付き合いが浅い証拠だが、これだけを見ているとどうしても付き合い始めたばかりには見えない二人だった。
―数分後―
お互いの顔の火照りが冷めたころ、あらためて花穂は兄に尋ねた。
「ねぇ、お兄ちゃま、熱心になにを見てたの?」
「ん?ああ、これはね………。」
兄が悩んでいたのは絵の事だった。
今週末までに提出しなければならないらしいのだが、まだ誰を書くのか決めていないという。
「今週末って事は、明日までだよね?」
「うん。そうなんだ。でもモデルも決まらないしどうしようかなって…。」
「え?現実に存在する人じゃなきゃだめなの?」
「うん、そうらしいんだ。だから困ってるんだ…。誰を描こうかなって…。」
兄によるとこの事を知っているのは妹たちの中では花穂だけらしい。
それもそのはず。たとえばもし咲耶に知られてしまおうものなら、咲耶が自分を描けと言い出すに決まっている。
咲耶がそんなことを言い出せば、妹たちがみんな同じ事を言い出すに違いない。と、花穂が思いもよらぬ事を口走った。
「じゃあ、花穂を描いて。お兄ちゃま。」
兄は一瞬自分の耳を疑った。
「え、でも悪いよ。しばらくじっとしててもらわなきゃならないし。」
そう。じっとしていてもらえなければ絵は描けない。さすがに妹が自分から言い出したとはいえ、それを頼むのは少々酷な気がした。
だが花穂はあきらめなかった。花穂にはどうしても兄を手伝いたい理由があった。
「この前、花穂の風景画の宿題手伝ってくれたでしょ?だから花穂にもお兄ちゃまの絵を書くお手伝いができないかなって…。」
「花穂ちゃん……。」
そういえばそんな事もあった。
2週間ぐらい前、やはり提出間近で困っていた花穂を兄は、徹夜までして一緒に手伝ってくれたのだった。
花穂はそのお礼がしたいというのだ。兄はそんな花穂の温かい心遣いを喜んで受けいれることにした。
「うん。わかった。じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「お兄ちゃま……。うん♪花穂がんばるね!」
兄は一瞬、「何をがんばるんだろう?」と思ったが、すぐに忘れることにした。
花穂が自分のためにがんばってくれる。それだけで充分だった。
「うん。よろしくね。じゃあ、あんまり人が集まってきても描けないから人の来ない場所に移動しよっか。」
「はぁい、お兄ちゃま♪」
という事で兄の部屋に移動することになった。
―数時間後―
カラン……。乾いた音が部屋の中に響いた。
「ありがとう花穂ちゃん。おかげで助かったよ。」
兄は妹の優しい心遣いのおかげでなんとか絵を書き終える事が出来た。
しかもそうとう美しい絵。もともと兄は絵がうまい方ではなかったが、かわいい妹が自らモデルを志願してくれた絵。
それだけに描く兄の方も熱心に取り組め、かなりの評価が期待できそうな仕上がりになった。
「ううん。お兄ちゃまのお手伝いができて花穂嬉しかったよ♪」
花穂も兄の手伝いが出来て満足しているようだ。
「じゃあ、リビングに戻ろうか。」
「うん。」
リビングに戻る途中、兄は横を歩く花穂の手を自分の手でそっと包んだ。
花穂はそんな兄の行動に顔を赤くしたが、すぐに兄の手をそっと握り返してきた。
ちいさなやわらかい手。そんな花穂の手が兄は昔から好きだった。
また花穂も兄の大きな暖かい手が昔から好きだった。
まだ花穂が小さかったころ、花穂は兄とよく手をつないでいた。
いつもすぐ転んでしまう花穂を、兄がしっかりと手をつないで一緒に歩いてくれていた。
花穂が転びそうになった時は、兄が転ばせまいと手を引っ張って自分の方へ引き寄せてくれた。
それは大きくなってからも決して変わらなかった。
みんなと一緒にいる時にはさすがに手はつなげないのだが、兄はいつも花穂のそばにいて、花穂の事を受け止めていた。
そして二人だけでいる時は必ず手をつないで歩いていた。昔と同じように。
花穂が転びそうになれば、兄が引き寄せる。それだけは昔から変わらなかった。
そしてそれは二人だけの秘密だった。
―更に数時間後―
といういきさつで兄の隣には花穂が座っているのだった。
だから花穂が兄の隣に座っているのはなにもおかしな話などではないのだ。
その話は他の妹たちも聞いていた。みんな納得しているようだった。
もっとも、そんな話では納得できない咲耶が1度だけ兄の隣に割り込もうとしたが、兄に、
「咲耶ちゃん、今日は花穂ちゃんの隣にいたいんだ。だから…ね?」
と言われてしまった。さすがの咲耶も兄に逆らうことは出来ない。
「お兄様がそこまで言うんだったら……。でも今日だけよ!今度お兄様の隣に座るのは私だからねっ!」
「はいはい。」
しぶしぶ納得したらしいがやたらあきらめの悪い咲耶である。一方の花穂はとても幸せだった。
兄と手をつなぐこともできたし、普段座れない兄の隣に座ることもできた。
いつもなら大好きな兄の隣には咲耶たちに阻まれ、座ることはできない。でも今日は大好きな兄の隣に座っている。
しかもそれだけでなく、兄が今日一日、自分の隣にいたいと言ってくれている。
普段兄と一緒にいる事が少ない花穂にとって、「今日」という日は特別な日だった。
他の妹たちが自分達の事を知らないため、二人だけとか二人一緒に、なんて事は滅多にない。
しかも自分はチア部の練習もあるし、朝も早い。一方の兄は他の妹たちとのコミュニケーションで忙しい。
いつか他の妹たちにも言おうとは思っているのだが、なかなか切り出せないでいた。
そんな風に色々なことが重なって、二人だけの時間というのは、週に1〜2時間ぐらいのものだった。
だから今日は花穂にとっても兄にとっても、幸せな日であることに変わりはなかった。
できることならばこんな時間がいつまでも続けばいいと思っていた…。
しかしそんな時間も長くは続かなかった。一人の妹の、唐突な言葉によって。
「兄くん……みんな…早く家の外に……。」
「千影ちゃん?」
その声の主は千影だった。普段彼女は滅多にみんなの前には姿をあらわさない。
兄でさえ千影には滅多に逢えないのだ。
だから現段階で千影の言葉が意味する事を理解した者は誰一人としていなかった。
だが次の言葉で――――
「魔界と…この家が…つながってしまう…。」
「え?それってどういう―――」
兄の言葉が終わらないうちに、辺り一面は一瞬、まばゆいばかりの光に包まれた。
光に包まれたのはたった一瞬の出来事。今はもう辺りは暗闇に包まれ、物音一つさえしない。
みんながいたこの空間はたった今、魔界とつながってしまったのだ。
なぜ魔界とつながったのかを知るのは千影しかいない。だが、今千影に理由を聞く事はできなかった。
「兄くん…、みんな……!」
薄れゆく記憶の中で、みんなを呼ぶ千影の悲痛な叫び声だけがこの暗闇の空間に虚しくこだましていた……。
しかしその声でさえも暗闇の中にと飲み込まれていった……。
あとがき
砂糖:2作品目です。添削かけました。
蝙蝠:前作と同じミスしおって。
砂糖:気付いたのがこれアップしてもらったあとだったんだよ…
蝙蝠:……まだ書き終わらんのか?この話。
砂糖:うん♪
蝙蝠:自信満々に言うな。
砂糖:ごめん…。
蝙蝠:して、ポイントは?
砂糖:……次の話がキーポイントになるのでなんとも…。
蝙蝠:そうだったな…。
砂糖:でしょ?
蝙蝠:まぁいい。今回もこのような駄文を読んでいただきありがとうございました。
砂糖:本当にありがとうございました。
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