「IMAGE OR」




コンコンッ!
軽いノックが部屋に響く、こんな時間に訪れるのは彼女しかいない。
「開いています。」
扉の向こうの人物に軽く呼び掛ける。
音もなく扉が開き、そして閉まる。
「お勤めご苦労さまです。」
「あなたこそご苦労さま、お互い大変ね。」
彼女は私に労いながらベッドに座っていた私の隣に腰を降ろした。
「でも、今日はやっかいな人間は来ませんでしたのでそんなに大変というわけではなかったですが・・・。」
苦笑しながら答える。
「もっとも、こられても今の私では時間稼ぎにもならないんですけどね。門番失格です、自信なくなっちゃいますよ。」
と自嘲気味に笑う。
――そう、私は幻想郷で1、2を争う名家で門番をやっている。
「あら?私やお嬢様が、あなたのそのことについて咎めたことがあったかしら?あなたはよくやっているわよ、あなたを突破してこれるほどの相手ならば、お嬢様は客人として認めているじゃないの。」
彼女の白い手がそっと頭に触れ、あやすように私をなでる。
「咲夜さん・・・。」
顔をあげる。と、そのままキスをされた。
「・・・・・・・・・。」
「どうしたの?そういうの鳩が豆鉄砲をくらったような顔って言うのよ。」
「鳩が豆鉄砲をくらったような気持ちだったんです。」
平静を装って答えるが、耳まで赤くなった顔を彼女は見逃してはいないだろう。
「今日はいきなりですね、どうかしました?」
「あら?落ち込んでいる部下を私が慰めてあげたらおかしいかしら?」
・・・・・・慰めているつもりだったのか。
「驚いたあなたの顔も見たかったしね。」
しかも不意を打った自覚まであるとは質(たち)の悪い。
「美鈴、私は屋敷のなかのことをお嬢様から任されているけど、あなただって屋敷の外を任されているじゃない。内と外にそれほど大差があるものかしら?
 胸を張りなさい。あなたのやっていることは誇れることよ。
 顔をあげなさい。下を向いたら気付くものも気付かないわ。
 前を向きなさい。後ろなら見てきたものしか落ちてないわよ。
 目を開きなさい。ちゃんと見なければ世界は思っているより暗いわよ。
 あなたはこの紅魔館の門番″紅美鈴″。この屋敷にいる全員がそれに納得しているわ、自信を持ちなさい。」
咲夜さんはそこまで言うと再びキスをしてくれた。今度のキスはまるでおまじないでもしてくれるかのような軽いキス。
「ん、じゃあ次は私の番でいいかしら?」
言うが早いか彼女は私をベッドに押し倒す。
「わわっ、やっぱりこうなるんですか?」
一応確認。
「あら、私はあなたを慰めてあげたのにあなたは私を慰めてくれないのかしら?私だって慰めて欲しいわ。」
主に体をですか・・・。
私は体を彼女に委ねる。別に温もりを交換するのは嫌いじゃないし、相手が愛しい人なら尚更だろう。だから、今度は私からキスをした。
「少しは慰められたでしょうか?」
「まだまだ足りないわね、最後まで協力してもらうわよ?」

・・・最近の私の夜はこうして彼女と過ごすことが多くなってきている。
人間である彼女が妖怪である私に好意を寄せてくれるわけはわからないけど、妖怪である私も人間である彼女に好意を寄せているのだからきっと問題なんてない。だって彼女の腕に抱かれて眠るのはこんなにも幸せだから。


暗くなった部屋で私は隣に眠る少女の紅い髪をそっと撫でる。
少女の名は美鈴、この館で門番を任されている。
「あなたはお嬢様から与えられた名をもう一度考えてみなさい・・・。」
この館のイメージカラー、お嬢様の名。どちらも紅。
「お嬢様から信頼も無しにそうそう貰えるものじゃないわよ。」
そう独り言ちて彼女の紅い唇に自分の唇をあわせる。
彼女は“紅美鈴”。紅いお嬢様が住む紅い屋敷で門番をしている紅い髪の女の子。
「こんなにも立派な名前をもっているのに呼んでもらえないなんて不憫ね・・・(笑)」