「東方プロジェクト」 二次創作

 このテキストは脳内設定という名の稚拙で我儘な捏造と改竄で綴られています





 博麗神社の境内を彩った淡い薄紅色にも、
 緑色が混じり始めた、そんな頃。

「あー、とうとう散り始めちゃったわねぇ」
「花見が出来なくなるのは寂しいぜ」
「よく言うわね。花なんて見てもいなかったくせに」
「私は霊夢みたいに酔狂な人間じゃないからな。
 花見に花なんて見ないぜ」
「でも花見を口実に宴会が開けなくなるのは、寂しいわねぇ」
「口実なんてなくても宴会するくせに〜」
「最後は派手にぱーっといきたいわね」
「いつも派手にぱーっといってるじゃない」
「で、何をするの?」
「うーん…」
「大弾幕大会、なんていうのはどうかしら?」
「………」
「………」
「………」
「「「「「「それだ!!」」」」」

 まあ、そういうことになったのである。





 弾幕爛漫
 The bullets are in full bloom.





 境内へと続く石段には長い行列が出来ていた。

「参加希望の方は、こちらにお並びくださーい!」

 『最後尾ここです』のプラカードを持った橙が、
 尚も続々とやって来る人やら妖怪やら妖精を誘導している。
 左腕の腕章には、達筆な毛書体で書かれた『おふぃしゃる』の文字。
 どうやら霊夢の直筆のようだ。

「あらあら〜。盛況ねぇ」
「あ、幽々子様」
「橙ちゃんはお手伝い?」
「はい、参加する皆さんの案内をしてます」
「そう、偉いわねぇ」

 頭を撫でる柔らかな手の感触に、橙は目を細める。

「幽々子様も参加するんですか?」
「あらぁ、私は参加はしないわよぉ。
 弾幕ごっこなんかしたら、お腹がすいちゃうものぉ」
「はあ…」

 幽々子様はいつでもお腹をすかせているのでは?という言葉は、
 喉元で止めておいた。

「白玉楼代表はこの娘よ」
「魂魄妖夢、誠心誠意頑張ります!」

 その表情には、鬼気迫るものさえ感じられる。

「よ、妖夢おねーちゃん、
 お花見の余興なんだからそんなに意気込まなくても…」
「たとえ余興であったとしても、そこが戦場(いくさば)であるならば、
 祖父より受け継ぎしこの二振りで、切っては投げ、切っては投げ」
「切っちゃ駄目ー!投げちゃ駄目ー!」

 弾幕ごっこなのである。

「だ、大丈夫かなぁ…」

 多分、大丈夫じゃない。





 参加希望者の数は、主催者側の予想を遥かに超えるものとなった。
 博麗神社常連のいつもの面々に加え、
 霊夢たちとはあまり縁の無い者や全く面識の無い者までもが集まり。
 およそ博麗神社界隈で弾幕ごっこが出来得る能力のある者の殆どが、
 集ってきていた。

 流石にこれだけの人数で弾幕ごっことなると、
 博麗神社の境内がいくら広いとはいえ、キャパシティを超える。
 主催者側は一計を案じ、新たな会場を用意した。

「参加受付がお済の方は、こちらへどうぞー」

 『おふぃしゃる』の腕章をつけた藍が促すそこ、境内の石畳には、
 彼女の主によって創られたスキマがその巨大な口をぱっくりと開けていた。

「えー、ここに入るのー?」
「見た目はちょっとキモいかもしれないけど、危険は無いから安心していいわ。
 気温22℃、湿度55%、無風。絶好の弾幕日和よ」
「いや、スキマで日和とか言われても…」
「つべこべ言わずにとっとと入る」

 どん。

「え?ちょ、なああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「お達者でー、健闘を祈ってるわー」

 紫色の不思議空間に落ちていく氷精に、藍はひらひらと手を振る。

「ていうか、飛べばいいんじゃね?」





 受付では、魔理沙が参加の手続きをしていた。

「あれ?霊夢は参加しないのか?」
「今日は裏方に専念よ」
「なんだ、つまらないな」
「仕方ないのよ。押し付けられたとはいえ一応は主催者だし。
 それにこれだけの人数で弾幕ごっことなればねぇ」

 会場となるスキマの内部には、霊夢と紫によって結界が施されていた。
 二人掛かりで幾重にも張ったその強固な見えない壁は、
 紫によって『紫と霊夢の愛の結晶“絶愛の檻”ver.1.02』と名付けられたが、
 もちろん誰もそんな名では呼ばなかった。

「いくらスキマの中とはいえ、外に漏れたらえらいことでしょ?
 結界だってどの程度持つかわからないし。
 不測の事態には備えておかないとね」
「不測の事態じゃ備え様がないと思うんだが。
 ま、それならそれで霊夢の分まで暴れてやるか」
「ふふ、頑張ってね。期待してるわ。
 で、参加者識別のリボンはどの色にする?」
「せっかくだから私はこの黒いリボンを選ぶぜ」

 受け取ったリボンには『博麗神社 安産祈願』と刺繍されていた。

「何だ、こりゃ?」
「赤なら『合格祈願』、青なら『家内安全』、緑は『無病息災』」
「なんで『必勝祈願』が無いんだ?」





「お?」
「ん?」

 参加者受付からスキマを挟んで反対側には、観覧席が設けられていた。
 大会には参加しないが、大会の様子は観戦したいという
 物好きな客の為に用意されたものだ。

 席の正面の巨大な魔道スクリーンには、スキマ内部の様子が16分割で表示され、
 更に周囲に設置された魔道スピーカーが、
 スキマ内部の音声を臨場感溢れるサラウンドサウンドで再現する。

 機器は香霖堂で製作されたものだが、その原理はパチュリーが考案したものだ。
 『Powered by Patchouli』のロゴが何気にカッコよかったりする。

「なーんだ。レミィも観戦組かー」
「ちょっと、パチェや霊夢ならともかく小鬼にレミィと呼ばれる筋合いはないわよ」
「なんだよー、冷たいわねー。会員仲間じゃない」





 幻想郷の一部の少女達によって、ある秘密結社が結成された。
 組織の名は『博麗霊夢溺愛同盟』。
 会長、霧雨魔理沙。
 副会長、アリス・マーガトロイド。
 名誉顧問、八雲紫。
 といった錚々たる面々を筆頭に、
 スカーレット姉妹、伊吹萃香、パチュリー・ノーレッジといった
 幻想郷でも屈指の実力者が名を連ねる最強且つ最凶の組織である。
 その戦力は『人形解放戦線』や『兎角同盟』の比ではない。
 まあ、結成理由や活動内容は兎も角として。

 霊夢をこよなく愛し、霊夢の寵愛を受けることを至高の悦びとする彼女たちは、
 今日も明日も明後日も、幻想郷の此処彼処で身悶え続けるのだ。





「霊夢を愛する同士としては認めてあげるけど、
 馴れ合うつもりはないわ」
「はいはい、相変わらずお高くお止まりですねー」

 萃香はさして気にした風でもなく、杯と瓢箪を取り出す。

「萃香は出場しないの?こういうの好きそうじゃない」
「あー?だって霊夢出てないしねー。
 ここで酒でも飲みながら観戦してた方が面白いわ」
「その意見には概ね同意ね」
「じゃあ意見の一致を見たところで、どうよ」

 もう一つ杯を取り出し、レミリアに差し出す。

「普段、赤より紅い葡萄酒ばかり飲んでいるブルジョアなお嬢様、
 偶には庶民の色の無い酒を飲んでみない?」
「あなたの鈍角なお酒が庶民的とも思えないけどねえ、まあいいわ」

 苦笑しながら杯を受け取るレミリア。

 実はこのふたり、結構気が合うのかもしれない。





「合法的に妖精や妖怪を弾幕で嬲れる宴会場はここかしら?」

 そろそろ受付を締め切ろうかという頃になって、風見幽香が現れた。

「あら、来たわね。自称幻想郷最強」
「自称も何も事実だしね」
「本当の最強は、自分から“最強”とは言わないと思うけどねぇ」
「度を越した謙虚はかえって嫌味というものよ」
「相変わらずねえ、まあいいわ。とっととリボン選んで」
「ん」

 選んだのは黄色のリボン。『良縁祈願』。

「あ、もしかして友達少ないこと結構気にしてる?」
「黙りなさい」





 スキマ内部。
 戦闘開始の時を待ちながら、魔理沙は考えていた。
 いつもの一対一の対戦と違い今日はバトルロワイヤル、
 周りは全員敵兼標的だ。
 あまり一人にかまけ過ぎると他の敵に不意を突かれかねないし、
 全く関係の無い流れ弾に当たる可能性も高い。

(やっぱり最初にでかいのかまして数を減らすのが得策か?)

 初弾の大技の為にカードを取り出………そうとして止めた。
 参加者の中に良く見知った顔を見つけたから。

(あいつがいるなら私がやるまでもないな)

 魔理沙は不適に微笑む。





「さて、それじゃあそろそろ始めましょうか」
「そうね」

 『実行委員会副委員長』の腕章を付けた紫が、
 手元に小さくスキマを開け中からマイクを取り出す。
 コードの先はスキマの奥へと続いている。

「あー、あー、てす、てす、只今マイクのテスト中。
 すっぱてんこーっ!」

 どんがらがっしゃん!!

 案内の仕事を終え、紫の背後に控えていた藍が、
 盛大にコケた。

「いきなり何を言い出すんですか!あんたは!!」
『何ってマイクテストよ。深い意味はないわ』(←スピーカー越しの声)
「勘弁してくださいよ〜」

 藍はマジ泣きだ。

「ねえ橙、“すぱてんこー”って何?」
「あ、あははは…」

 ルーミアの質問に、曖昧に笑って応えることしか出来ない橙であった。
 いかに式とはいえ尊厳は守られるべきだ。





『えー、それでは本日の大弾幕大会について簡単にご説明申し上げます。
 ルールはいつものスペルカード・システム。
 但し、エリミネート方式で行われます。
 最後の一人が残るまで戦闘が継続されますのでご注意ください。
 そして最後の一人となり、見事勝利者となった暁には、
 本日の参加者、スタッフ、観戦者の中から誰でも好きな一人を指名して、
 一つだけ命令する権利が授与されます」』
「め、命令って何でもいいの?」
『そうねぇ、その人が実行可能で、
 あまり無茶なことでなければいいんじゃないかしら』
「例えば、一晩中愛を確かめ合いましょう、とか!」(←アリス)
「例えば、めくるめく官能の渦へ共に堕ちましょう、とか!」(←パチュリー)
『あんたらの頭の中は、それしかないんか!』

 俄然ヒートアップ&ボルテージアップするスキマ内。
 一方、観戦席では、

「ちっ。そういうことなら参加するんだったわ」
「もし何処の馬の骨とも判らぬ輩が優勝して、お嬢様に下賤な要求を突きつけたら…。
 嗚呼!お嬢様の貞操の危機だわ!なんということでしょう!!」
「あ、もうツマミがないや。ねー誰かー、屋台で何か買ってきてー」
「あ、たこ焼き美味しいそう」
「向こうの屋台で香霖堂の御主人が売ってたわよぉ」
「そーなのかー」

 まあ、こっちはこっちでそれなりに盛り上がっていた。





「何?何?これってもしかして凄いチャンスなんじゃない?」

 テンション上がりっ放しの参加者の中にあって、
 メディスン・メランコリーもまた例外ではなかった。

「優勝すれば人形開放戦線の名を幻想郷中に知らしめられるし、
 戦力増強だってできるかも、かも!!
 ふ、ふふふ、ふふふふふふふふ…」

 耳や鼻からエクトプラズム気味に毒を漏らしつつ、
 不適に笑う生き人形の姿は、
 傍から見るとかなりおどろおどろしかった。





 メディスン同様他の参加者たちも、これを大きなチャンスと考えていた。
 なにしろ霊夢と紫は主催者として裏方に専念、
 レミリアや幽々子、萃香は観戦組にまわり、
 永遠亭の面々も本日は医療班として待機中。
 参加すれば優勝候補と目されるだろう実力者の大半が、
 不参加なのである。
 上手く立ち回れば自分にも、と考えるのは無理からぬことだった。

 しかし、参加者の多くは忘れていたのだ。
 チャンスを掴み取る為に越えなければならない、
 最も高く、最も厚く、最も硬い障壁の存在を。





『それでは皆さん、準備はよろしくて?
 レディーーーーファイッ!!!』(←ゆかりんノリノリ♪)




 紫の合図と同時に参加者たちは一斉にカードを切る。

 少女もまたカードを取り出す。
 そっと口付け、呟くように宣言する。

「――終わり。終わる。終われ。
 QED『495年の波紋』」

 スキマを、空間を、全てを侵し広がる、
 証明終了という名の円形の破壊衝動。

「い、いきなりそれなのー!?」
「うわ、悪魔の妹、容赦無さす!」
「妹様、空気読めー!」

 狂気の少女に空気を読むことを期待していた時点で敗北は決定していたのだ。
 幾重にも交差する弾群の波に呑まれ、ひとり、またひとり、堕ちていく。

「あははははは!妖精や妖怪がゴミのよう!」

 開始後わずか数十秒。
 参加者の数は1/20にまで減ってしまった。





「あはは…」
「もう笑うしかないわねぇ…」

 受付兼本部席には乾いた笑いだけがあった。

「まあフランがエントリーした時点で、ある程度予想はしてたけどねぇ…」
「これはもしかして早々に決着がつくんじゃない?」
「さあ、それはどうかしらね。むしろ本番はここからじゃない?」





 フランドールのQEDを凌ぎ切り、残ったのは十数人。
 それはつまり、凌ぎ切るだけの実力、あるいは強運を持っていた者だけが、
 この場に居ることを意味している。
 
 はたして霊夢の言う通り、本当の闘いはこれからなのだった。





「――踊れ。踊れ。踊れ。
   凍える舞姫と共に。
 凍符『パーフェクトフリーズ』!」

 チルノから放たれた七色の光弾は、一瞬にして凍りつき、
 舞うように飛ぶ。

「寒いぜ。寒いぜ。寒くてバナナで釘が打てるぜ。
 そんなHな弾幕に当たるのはHくらいのもんだ」
「うるさい!H言うな!!」

 襲い掛かる氷弾を悠然と避けつつ、魔理沙はカードを切る。

「本物の弾幕って奴を見せてやる。よーく見てな。
 ――貫け!
 我は乙女、恋心は一途。
 恋符『マスタースパーク』!」

 ヴウォンッ!!!

 閃光、轟音、うねる空間。
 あまりにも暴力的な乙女心の奔流。
 とばっちりを食らい、更に何名かが戦線を離脱した。

「あ、あんたのは“弾”幕ですらないじゃない!!」

 間一髪でかわしたチルノが抗議の声を上げる。
 その蒼い髪の先がチリチリと焦げていた。





「――吐息は甘く。
   侵す。犯す。
 毒符『ポイズンブレス』」

 メディスンは毒を撒き散らしながら、次々と弾を放つ。
 拡散した毒は相手の逃げ場と体力を奪う。
 じわじわと、じわじわと、獲物を追い詰める愉悦。

「どうしたの逃げているだけ?
 でもいつまでも逃げ切れるものじゃないわよ」

 次々と放たれる毒と弾を避けながらアリスは間合いを取る。

「素晴らしいわメディスン・メランコリー。
 “完全なる自由意志”、“完璧な自律行動”、
 私が求め続け未だ得られないものを貴方は持っている。
 けれど――」

 アリスはカードを取り出し、掲げる。

「貴方は大事な事を忘れている。
 人形とは人の形。
 人と共に在るもの。
 人の心に触れるもの。
 貴方に人と人形の調和を見せてあげるわ」

 現れ出でる八体の――八人の人形。
 慕うように、護るように、アリスの周りを巡る。

「 ――魔動博愛人形<ウィッチ・ドリヴン・フィランスロフィ・ドールズ>。
   彼女たちの名はオルレアン<ゼア・ネーム・アー・オルレアン>」

 アリスの魔道の言葉に応えるように、人形たちがその口を開く。

“ソウフ『ハクアイノオルレアンニンギョウ』”

 人形遣いと生き人形。
 滑稽な人形裁判。
 放たれた楔が断罪するのは何?





「――我は常に在り。
   汝の頭上で見守るもの。
 月&木符『サテライトヒマワリ』」

 うねり、廻り、降り注ぐ光弾。

「気象衛星が弾を撃たないでください!!」
「正しくは運輸多目的衛星」

 間違っちゃダメよ、と諭すように話すパチュリー。
 もちろん弾幕は継続中であり、弾は振りまくりであり、
 妖夢にパチュリーの声は届いていない。

「これなんてキラー衛星!?」

 迫る光弾を二振りの剣で捌きつつ、魔女に肉薄する。

「――冥き心。紅き迷い。
   我が逝く道は血に染まりし。
 妄執剣『修羅の血』」

 剣豪はその妄執でさえも刃と成す。





「――花咲く乙女よ、露と散れ。
 花符『幻想郷の開花』」

 咲く、六十弁の弾幕の花。
 無慈悲故に、美しく。

「あなた、不死人なんですってね。
 素敵。
 幾らでも、好きなだけ、何度でも、何度でも、
 刺して、突いて、貫いて、撃って、焼いて、壊して、犯して、殺して、
 あげるわ」

 その笑みに宿るは純粋な嗜虐。
 純粋故に、善も悪も無く。
 純粋故に、美しく。

「不死人だって、弾が当たれば痛いし、レーザーで焼かれれば熱いのよ!
 それに、私をそんな目にあわせて良いのは、輝夜唯一人!!」

 純粋へと向ける怒りも、また純粋。
 熱く、ただ熱く、その心燃え上がらせ。

「――紅蓮の翼よ、その灼熱で全てを浄めろ!!
 不滅『火の鳥、鳳翼天翔』!!」

 その業火は幻想の花さえ焼くか?





 弾が当たれば痛いし、レーザーで焼かれれば熱い。
 本部席横に設営された救護テントには、次から次へと敗者が運び込まれ、
 八意永琳率いる救護チームに助けを求めていた。

「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!たすけてえーりん!」
「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!たすけてえーりん!」
「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!たすけてえーりん!」
「( ゚∀゚)o彡゜えーりん!えーりん!たすけてえーりん!」
「お前ら、右手を振りまくる元気があるなら出て行け!!」





 霽れない霧が無いように。
 明けない夜が無いように。
 終わらない冬が無いように。
 散らない花が無いように。

 宴にも終わりのときはくる。

 熾烈を極めた戦いの中、
 敗者がひとり、またひとりとその場を去る。

 けれど、自分の持っている全ての智と業を出し切った彼女たちの表情に、
 悔いや恨みは欠片もない。
 なんて晴々とした笑顔。

 “ごっこ”とは“いい加減に行うこと”ではない。
 彼女達はいつだって真剣だ。
 真剣に弾幕で“遊んで”いるのだ。
 そして“ごっこ”であるが故に、
 そこに生死は無く、ただ勝敗だけが在り。
 “ごっこ”であるが故に、“次”がある。





「ふぅ。やっとふたりきりだぜ」
「ふふふ。やっぱり最後に残ったのは魔理沙だった。
 お姉様の言った通り」
「なんだ?また“運命”を覗き見たのか。いけない姉上だぜ」

 対峙する影。

 一人は悪魔の妹。
 一人は普通の魔法使い。

「今日はとても楽しかったわ」
「これからもっと楽しくなるぜ」
「ええ、貴方と遊ぶんですもの」

 フランドールは飛ぶ。
 魔理沙に向かって。
 矢のように。
 雷のように。

「あはははは!
 お姉様が教えてくれた!
 霊夢が教えてくれた!
 魔理沙が教えてくれた!
 壊すよりもっと楽しい遊び方!」

 少女はカードを切る。真っ赤なカードを。
 深紅――スカーレット、それは彼女たち姉妹の生き様。

「――絶望の淵より我がもとに来たれ!
   汝、厄災の名を持つもの!
 禁忌『レーヴァテイン』!!!」

 振られる紅い剣。
 二度、三度と。
 だが、そのどれもが魔理沙を捉えられない。





「速い…」

 ふたりの戦いを見ていた誰かが呟いた。

「当然です」

 ふたりの姿を、
 その魂までも写し取ろうとするかのようにシャッターを切り続ける文が、
 ファインダーを覗きながら答える。

「黒は、幻想郷では速さの象徴なのです!」
「そーなのかー」
「………あー、いえ、前言撤回します…」





「どうしたフラン。そんな弾幕じゃ私は捕まえられないぜ」
「そうね。やっぱり魔理沙にはとっておきじゃないとダメみたい」

 フランドールは次のカードを切る。
 強くて、優しくて、大好きな、魔理沙だからこそ使うとっておき。

「――そして楽園は失われる。
 禁忌『フォービドゥンフルーツ』」

 放たれる弾幕。
 列を成し無数に飛び交う禁断の果実。

 しかしそれさえも、最小限の動きで魔理沙はかわす。

「知ることが罪なら、
 魔法使いなんて随分因果な生き様だ。
 けど、楽しすぎるから止められない」

 魔理沙がカード切る。
 ミニ八卦炉が眩く輝く。

「――その一途な想いに応えよ!
   心焦がせ!」

 放たれる今日二度目の、

「恋符『マスタースパーク』!!!」

 それは、霧雨魔理沙だからこそ撃てる愛する者への思慕の証。





『大弾幕大会、勝者は霧雨魔理沙!!』

 紫のコールに応え、手を振りながら降り立つ魔理沙。

「相変わらず出鱈目な強さねぇ」
「出鱈目とは心外だな。霊夢はともかく私は至極真っ当な人間だぜ」
「真っ当な人間は極太レーザーで吸血鬼を焼いたりしないわ」
「それこそ心外だ。
 あれは、私のフランに対する愛情をちょっとだけ過激に表現しただけで…」
「あー、はいはい。
 まあ別にどうだっていいのよねぇ、そんなことは」
「何だよ、えらく投げ槍だな」
「いま、観客たちの関心はただ一つ!」
「?」
「勝者の特権です。霧雨魔理沙さん、貴方は誰に何を望みますか?」
「ああ、そういうことか」

 自分に注がれる微妙な視線の意味に、苦笑しながら頭を掻く。

「私の望みは…」

 ゆっくり手を上げ、指差すその先。

「霊夢!」
「うわ、やっぱりそうくるのか」
「すっごいベタ」
「何のひねりもなかったわねぇ」
「魔女、空気読みすぎ」

 あまりにも予想通りの展開にブーイングの声さえ上がる。
 しかし魔理沙の次の言葉は、
 観客たちの予想の斜め上45度くらい?をいくものだった。

「私と勝負だ!」
「「「「「「「「「「はあ?」」」」」」」」」」




 桜の花を見下ろす博麗神社上空。
 ふたりの少女が挑発的な眼差しで見つめあう。

「言っておくけど、
 やるからには手加減はしないわよ」
「望むところだ。
 むしろ御社比20%増くらいの本気度でお願いしたいぜ」
「後で後悔しても遅いわよ」
「後悔する暇も無いぐらいの音速で、いっぱいいっぱいにしてやるぜ」

 笑みを交わし、ふたり同時に切る。
 魔理沙はカードを。
 霊夢は札を。

「――捧げるは乙女の最強の武器二つ!
   純情!愛情!
 恋心『ダブルスパーク』!!」

「――花鳥風月。
   人妖霊鬼。
   全ては私の夢の中。
 散霊『夢想封印 寂』」





 星が流れ、札が舞い、
 光が閃き、璧が飛ぶ。

 散り行く花を惜しむように。
 過ぎ行く季節を惜しむように。





「全く、非常識に底知れない奴だな。
 いったいどれだけ近づけば追いつくことができるんだ?
 このままじゃ一生離れられそうにないぜ」
「口ではどうとでも言えるわ。
 その言葉、本気なら、
 見事添い遂げて見せなさい」





 少女達は空を仰ぎ、見る。

 或る者は呆然と。
 或る者は悠然と。

 或る者は嬉々として。
 或る者は鬼気として。





「だ、弾幕で愛を語り合ってる…」
「霊夢の恋人なら、あの位はできないとねぇ」
「そ、そーなのかー………が、頑張る…」
「ふふふ」

 宵闇の妖怪とスキマ妖怪が。





「凄いですねぇ、藍様」
「ええ、そうね」
「それにとっても楽しそうです」
「楽しいのよ。ふたりにとっては今、この時が。
 なんとなく判るわ」
「?」
「もし私が参加して優勝していたなら、
 多分私も同じようなことを望んだと思う。
 『紫様と戦い』ってね」
「ん〜…よく判りません」
「ふふ、橙ももう少し強くなれば判るかもね」

 式とその式が。





「アリス、仔細漏らさず描き留めるのよ」
「もちろんよパチュリー。夏の新刊はこれで決まりね」
「霊夢×魔理沙…
 いいえ、これだけのスケッチがあれば魔理沙×霊夢だって作れるわね」
「あのー…どうして弾幕戦を見ながら描いてるのに濡れ場になっちゃってるの?」

 二人の魔女と半人半霊の庭師が。





「あれも一種の前戯でしょうか?」
「何気に問題発言だねぇ、この天狗ってば」

 天狗と鬼が。





 亡霊の姫が、月の民たちが、月と地上の兎たちが、不死の少女が、
 花の妖怪が、生きた人形が、多くの妖精と妖怪たちが。





「フランドール」
「お姉様」
「楽しかったのね?フランドール。
 熱と光にその身を焼かれたいうのに」
「ええ、楽しかったわ。とても楽しかった。
 魔理沙や霊夢と遊んだときはいつだってそう。
 ねえ、お姉様」
「なあに?」
「魔理沙や霊夢はどうしてあんなに凄いのかしら。
 たかが人間のくせに」
「そうね。
 たかが人間の分際でこんなにも私たちを楽しませる。
 理解し難い存在だわ。
 あなたはどう思う?咲夜」
「私の口から申し上げても良いですが…。
 ですがお嬢様の胸の内には、既に答えがあるのではないですか?」
「もちろんよ。でも悔しいから言わないわ」
「それでは私の答えもそのように」
「あはははは、訳わかんない」

 吸血鬼の姉妹とその従者が。





「これで最後だ」
「ええ」

 そのスペルにありったけの想いを込めて。

「――大好きだぜ霊夢。
 魔砲『ファイナルマスタースパ――」

「――愛してるわ魔理沙。
 心霊『夢想封――」





 散り行く桜の花の上、
 弾幕という名の恋の花が咲き誇る。
 それさえも幻想郷の移り行く時の中では、
 至極当たり前な日常の光景なのかもしれない。






 あとがきのようなもの

 この度は拙作をお読み頂き誠にありがとうございました。
 作者の篠原ヌルです。

 今作では、
 ・登場人物をやたら多くしたり
 ・細かく場面を切り取って描写したり
 ・カードの宣言を詠唱風にしてみたり
 ・藍を女性口調で喋らせてみたり
 ・萃香や妖夢を女の子らしく喋らせてみたり
 と、いろいろ実験的なことをしてみましたが、
 その試みは全て失敗に終わってしまいました。

 クオリティ的にはかなり問題のある作品になってしまいましたが、
 内容については自分では気に入っております。

 願わくば、
 お読みくださった皆様に面白いと思っていただける
 セリフや場面が一つでもありますように。




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