「東方プロジェクト」 二次創作

 このテキストは脳内設定という名の稚拙で我儘な捏造と改竄で綴られています





「こんにちは、パチュリー。お邪魔するわ」
「あら」

 魔道書から視線を上げた魔女が鼻眼鏡を指で押し上げる。
 伊達の割にはその仕草は妙に様になっている。

「珍しいわね、あなたがこっちに来るなんて」
「ちょっと調べ物があってね」
「そう」

 興味無さ気に答え、頁に視線を戻す。
 けれど、彼女の内心はそれなりに穏やかではなかった。





 L/L
 Love Library





 ヴワル魔法図書館。
 その暗闇と静寂を切り取るように、
 柔白の魔法光が照らす一角。
 聞こえてくるのは頁を捲る音だけ。

 閲覧用の大机の端で物質変成についての魔道書を読むパチュリー。
 もう一方の端では、霊夢が密教経典の解説本を広げている。

 互いの読書の邪魔をしないようにという配慮、
 だけではないだろう微妙な距離感が、
 ふたりの“今の”関係を物語っていなくもない。

 先に静寂を破ったのはパチュリーの方だった。

「ねえ、霊夢」
「んー?」

 答えが妙に間延びしているのは、
 意識の大半を本に奪われているからだろうか?

「霊夢は魔理沙のことが好きなのよね?」
「ええ、好きよ」

 直線的な問い。
 直線的な答え。

 ふたりの視線は頁に注がれたままで、
 二つの少女の声だけが机上を滑る。

「レミィのことも好きなのよね?」
「ええ、好きよ」

 その答えには一片の戸惑いも無く。
 その答えには一片の躊躇いも無く。
 どこまでが本気なのだろう?
 きっと、どこまでも本気なのだろう。

「ねえ、霊夢。あなたは…」

 言葉を途切るのは、
 霊夢の意識の全てをこちらに向ける為。

「誰が一番好きなの?」

 ふたりの視線は既に頁の上には無く、
 双眸を結ぶ二条の直線。

「みんな大好きっていう答えは、反則かしら?」
「そうね、随分と傲慢な答えだと思うわ」

 パチュリーの言葉に霊夢は目を伏せ、
 自嘲気味な笑みを浮かべる。

「だって…しょうがないじゃない…
 本当にみんなのこと大好きなんだもの…」

 哀しげな微笑が揺らいだように見えたのは、
 霊夢の躰が浮んだから。
 流れるように飛ぶ。
 パチュリーに向かって。

「霊夢…?」

 忽ち紅で覆われるパチュリーの視界。
 それは巫女装束。
 座ったままのパチュリーを、霊夢はその胸にかき抱く。
 けれど、その力はあまりにも弱々しい。

「霊……夢?」
「だって本当にみんな大好きなんだもの…
 誰かひとりなんて選べないもの…
 みんなを好きでいたい…
 みんなを愛したい…
 みんなから…愛されたい…」

 何故それ程までに愛したいのか?
 何故それ程までに愛されたいのか?

 何をそれ程までに懼れるのか?

「私のこと嫌いなら、私のこと突き飛ばして。
 でも、もし、少しでも受け入れてくれる気持ちがあるなら…
 もう少しだけこのままでいさせて…」

 突き飛ばそうと思えば、突き飛ばせただろう。
 そうしようと思った。嫌いだから。
 けれど気付いたときには、
 パチュリーの両腕は霊夢の背に回され、
 しっかりと抱きしめていた。

「あ…」
「………私はあなたのこと嫌いよ」
「うん…解ってる」
「でも今は、このままでいてあげるわ」
「うん…ありがとう…今はそれだけで十分よ…」
「霊夢、泣いてるの?」
「泣いてるわ。
 私だって嬉しいときには涙を流すのよ」
「意外としっかり女の子してるのね」
「………馬鹿」

 これは始まりなのだろうか?
 それは解らない。
 けれど今は、
 この寂しがりやの女の子の温もりを感じていたいと、
 そう思った。





 後日。
 号外として幻想郷中にばら撒かれた「文々。新聞」に、
 『巫女に新恋人!? 魔法図書館の密かな逢瀬』
 というかなり頭の悪げな見出しが躍ったりするのだが、
 まあそれは別のお話。




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