月の光に染まる街 第八幕
〜再襲または反転〜
――さぁ、最後の夜だ。
今夜で全てが終わる。
表舞台と裏舞台。
みんなみんな踊り踊れ――
「ロアが見つかったって本当なの?」
電話をかけて数分もしないうちにアルクェイドと先輩は屋敷にやってきていた。
二人は傍目にもかなり興奮している。
それだけロアを狙ってるってことだろう。
その質問に頷きながら、俺は状況を説明する。
秋葉が四季を見つけたこと。
四季がまだロアに乗っ取られていないこと。
そして四季は学校にいること。
秋葉はもう落ち着いているが、不安そうな様子は隠せていない。
何故ならアルクェイドもシエル先輩も、殺気を隠そうともしていないから。
「二人はどうするつもりだ?」
分かりきったことを聞く。こんな殺気を放っているのに、どうするつもりだなんて。
答えなんて一つしかないだろう。
それでも俺は確認しておきたかった。
シエル先輩ははっきりと答える。
「決まっています。ロアは断罪する。それがわたしの使命ですから」
淀み無い口調に揺ぎ無い意思。彼女は殺意をそのままにしたような言を現す。
だがアルクェイドは答えない。
殺気を纏ったまま、鋭い瞳を床に向けて。
何かに耐えるようにうつむいて。
幾分時間が過ぎた後、ふぅとため息を吐いた。同時に彼女の殺気が霧散する。
「……秋葉のお兄さんなのよね、ロアじゃなくて」
「アルクェイド……?」
彼女の言葉に誰より意外そうにしているのは先輩だった。
「それなら志貴に任せるわ。八百年間の決着がこういうのもいいかもしれない」
どこか悟ったように微笑みながら、ねぇと俺に笑顔を向ける。
その向こうで、先輩は半ば呆然と言っていた。
「……ずいぶん優しくなった物ですね。それともあなたはロアに対する憎しみが薄れたとか」
「馬鹿言わないで。こんな状況で無い限りわたしが殺すわ。今までの様に」
視線で殺せるほどの気概を込めてアルクェイドが先輩を睨みつける。その様子では冗談とも受取れない。
アルクェイドとロアの間に何があったのか、俺は知らないけどアルクェイドにとってはとても許せないことだったんだろう。
その機会を俺に譲ってくれるとは――
「――いいでしょう。わたしも遠野君に譲ってあげましょう。
でも彼がロアなら遠慮なく殺させて頂きますから」
手を握り締めながら先輩もそう言ってくれた。先輩にもよっぽどロアを殺したい理由があるのだろう。震える拳は隠せない。
……責任重大だな。
今更ながらそう感じる。
「二人ともありがとう。言っておくけど俺は四季を助けるつもりだから」
「兄さん……」
「志貴らしいわ。わたしはそんな志貴だからいいんだけど」
苦笑ではなく笑顔でアルクェイドが玄関に向かいだす。その後を秋葉が追ってアルクェイドに頭を下げていた。いやシエル先輩にもだけど、なんか対応に差があるような。
さて、と俺も立ち上がった。
後ろにずっと控えていた翡翠を振り返って、
「翡翠、戸締りして屋敷を出ないように。ちゃんと戻ってくるから」
「はい、四季さまをよろしくお願いします」
「わかってる。アイツは俺の親友だからね」
軽く手を振って翡翠に応える。
そう言えば琥珀さんがいないけど、なにかあったのだろうか。
「翡翠、琥珀さんは?」
「姉さんは――気分が悪いと言って部屋で休んでおります」
「そっか……わかった。お大事にって言っておいて」
琥珀さんは心配だったけど、今はほかの事を精一杯考えなければならない。
だからだろう――
翡翠の隠したような悲しみに、俺はまったく気付いていなかった。
俺はこのことを、後で深く後悔することになる――
夜道は暗い。常夜灯もまばらなこの坂道を下りながら、不躾かもしれないけど俺はアルクェイドにたずねていた。
「お前とロアって、何があったんだ」
んー、とアルクェイドは空を見上げながらすこし足を速めて前に出た。
「わたしが初めて血を吸った相手がロアよ。それからわたしは怖くて血を吸った事は無いわ」
その答えは意外すぎる。だってアルクェイドは吸血鬼なのに、八百年間も血を吸っていないなんて。
「吸血鬼なのに血を吸わなくていいのか?」
当たり前の様な俺の質問に、シエル先輩が答える。
「遠野君、アルクェイドは真祖なんです。真祖は死徒のように身体の維持のための吸血は必要ないんですよ」
そういえばそういうことを聞いたことがあるような気もする。吸血鬼には二種類いるとか。
ただ吸血鬼は日本には滅多にこないせいで俺も詳しくは知らなかった。有彦なら知っているかもしれないけれど。
でもそれなら血を吸う必要も無いと思うが――
「そうよ、わたしにあるのは狂いそうなほどの吸血衝動だけ」
前を歩くアルクェイドの表情はここからでは伺えない。
たぶんそのために、歩調を速めたんだろう。
「わたしはロアの血を吸ったために、アイツに力を奪われ、そこにいた全ての真祖を殺してしまったわ。なにもわからないままでね。
そのためにロアを追い続けた。殺してもアイツは転生して、それをまた殺して――八百年間ずっと」
「そして現在の一つ前のロアがわたしでした」
アルクェイドの話を引き継ぐように、先輩が語りだす。
先輩を見ると、聞きたかったんでしょう?と返された。
淡々と、事実だけを語るような口調で先輩は続ける。
「わたしはロアのために両親、町の人みんなを殺してしまいました。
ええ、覚えています。あんな地獄、忘れられません。
そんなわたしを殺したのがアルクェイドです。その事はあなたに感謝しなければいけませんね」
別にいいわよ、と呟くアルクェイド。
先輩は胸元からロザリオを取り出して、握り締めた。
「それなのに、何の因果かわたしは生き返った。
そしてロアが生きている限り世界の修正が働くため、わたしは死ねない身体になりました。
なにをしても死なない。死ねない。この苦しみはだれにもわからないでしょうね」
だから彼を殺すのだ。そう先輩は語る。
自分の死を取り戻す。当たり前の終わりを手に入れる。それが自分の目的だと。
二人の話を秋葉も真剣に聞いていた。
その秋葉すら、ついさっきまで四季を殺すために生きてきたのだ。
ふと、思う。
ただ一人の存在をこの世から消し去ろうとしてきた三人と、
全ての魔を殺すための一族の生き残りである俺と、
果たしてそのどちらが罪深いのか。
答えは出ないが、意味の無いことに思える。
だって今夜で全てが終わる。
それならそんなこと、きっと意味なんてなくなってしまうだろう――
見上げた夜空には弱々しい星を従えて、玲瓏たる輝きを見せる白い月。
ああ、こんなにも、月がきれいだ――
俺達の前には、決着の場である学校が在った。
そしてその前に、あの夜と同じ影が立ちはだかる。
ネロ・カオス――
「良い夜だな、各々方」
あの時とは違う、静かな口調でネロは語りだした。
もちろんアルクェイド達三人は殺気を漲らせてその闇を睨みつける。
だがネロはそのことを意に介した様子も無い。というより、そちらに注意を向ける余裕が無い。
その視線は俺だけに向いていた。その静かな殺意は俺にだけ向けられていた。俺の動きを僅かでも見過ごすまいと、その紅い眼で見張っていた。
そこに以前の様な慢心はない。その隙間を俺を全力で殺そうとする殺意が埋めていた。
ゾワリと全身が泡立つ。
魔を狩る俺の血が告げる。
コレは尋常じゃない。前のネロとは比べ物にならない。
そこにいるのは、何百ものケモノに、殺意という唯一つの方向性を与える殺人鬼だ。
漲る殺意を水面のように動かさず、氷のように尖らせて、ネロは俺だけを見つめている。
その意思の対象として。
「貴様等に用は無い。我が目的はその男のみ。
人間、名をなんと言ったか」
静かに問う殺人鬼に、静かに答える。
「――七夜。七夜志貴」
秋葉が振り返るのが気配でわかる。
……今夜からは、俺は七夜だ。遠野四季の名は元の持ち主に返ったんだ。
だから、もういいんだ。
そんな俺の心中に関係なく、吸血鬼はその答えに満足そうに頷いた。
「我が宿敵の名は知り置きたかったのでな。
さて七夜――存分に殺し合おう」
その宣告と同時に、ネロは右腕を突き出した。
向かい来る死に右に飛びのき、さらに追いすがる黒い塊を壁を足場に向かい側に飛び移ってかわす。それはそのまま右の壁を突き崩した。
「流石。我が“妖獣の手”から逃れるとは」
心底感心したようにネロは呟く。
俺のいた場所を貫いている、エタイのしれない黒い手を伸ばしたまま。
だがその表情も長く続かない。
斬、という刃音を響かせて振り下ろしたシエル先輩の剣がネロの右手を斬り落していた。
びしゃりと黒いナニカが地面に落ち、ネロに戻っていく。
その間、ネロは不快に眉をゆがめて先輩を見ていた。
「埋葬機関如きが――私の邪魔するとは不愉快極まる」
鋭い瞳でネロを見返し、先輩はさらに剣を何本も構えた。
「ネロ・カオス。とお――いいえ、七夜君には役目があるんですよ。あなたの相手はわたし達で十分です」
先輩の言葉に、俺は塀を駆け抜けて敷地内の中に飛び込んだ。
眼鏡を少し外し、窓の線をかき切って中に滑り込む。
後ろからネロの声が響き続ける。
「戯けが過ぎるぞ……
――だが、良い。前菜として喰らってやろう。七夜、役目とやらを早く済ませて来るが良い。
その時は今度こそ殺し合おう。互いの全てを賭して殺し合おう」
その直後、轟音がとどろいた。
それでも俺は足を止めない。
託された役目を果たすまで。
暗い昏い部屋の中。
イヤフォンから聞こえてくる叫びにわたしはふぅと嘆息した。
今しかない、と思う。
志貴さまの行動が速過ぎて一番いいタイミングを外してしまったが、まだ間に合うはずだ。
……躊躇なんてしていない。だって、わたしは人形なんだもの。
人形に躊躇なんていらないはずだもの。
だからあっさりこんな事もできてしまう。
ぶつんとわたしから切れる感覚。
これでいい。
さあ、アルクェイドさま。志貴さまに助けを求めてください。
秋葉さま、思う存分暴れてください。
そうしないと、計画が壊れてしまいますから――
わたしが消音結界を張り終えたとき、それは起こった。
「秋葉っ!」
アルクェイドの声に振り向くと、胸を押さえてうずくまる秋葉さん。
「ちぃっ!」
この忙しい時に――!
わたしが叱咤しようと息を吸い込み、
「死んでください、アルクェイドさん!」
絶叫の様を見せる秋葉さんの声に驚愕した。
「秋葉さん!」
真紅に染まった髪を振り乱し、アルクェイドに飛び掛る彼女。
それは紛れもない反転した姿だ。
「秋葉っ!落ち着いて、血に飲まれないでっ!」
アルクェイドが必死に叫んでいるようだが、その言葉は遠野秋葉には届かない。
そこにいるのは真紅の鬼――
「余所見をするとは余裕だな、執行者」
すぐ傍で聞こえた声に反応する暇はなかった。
腕を一本喰い千切られる。その痛みは神経が焼き切れるよう。だがわたしは構わずに黒鍵を振るった。
まともに喰う事はせずネロは飛び退き、距離をおく。
その間にも――わたしの身体は修正を始めていた。
「ほう……話は聞いていたが、貴様があの娘か。
世界によって生かされ続ける呪い子。埋葬機関の切り札にして捨て札。
ここで見える事となるとはな」
淡々と――遠野君の時と比べてずいぶん感情のない声で、ネロが言い放つ。
わたしはそれを無視した。
アルクェイドと秋葉さんはすでに移動した後かその場にいない。
ずいぶんまずい事になった。ただでさえこのバケモノ相手で分が悪いのにしかもわたし一人か。
これはまたずいぶん――死に易いところに来たものだ。
「ほう、ここで笑うか」
ネロの言葉は正確だ。今わたしは、例えようもなく嗤っている。
「ええ、笑っちゃいます。もしかしたら死ねるかもしれませんから」
「く……贅沢者が。世界修正という、ある意味最高の永遠に到達しながら死を願うとは」
苦笑にも似た表情を作る吸血鬼――いや、永遠を求めるモノ。
私に向けられたこの男の、無表情以外の初めての表情だ。
同じ様な苦笑でわたしは答える。
「そうですね、かもしれませんが――わたしは人間でいたかったのですよ、貴方とは違って」
「そうか」
ただそれだけの言葉で、馴れ合いの様な物は終わった。
まあこれされ奇跡的なものだろう。
吸血鬼を狩るわたし。
吸血鬼であるネロ・カオス。
その間に本来会話など成立しない。あるのはただ殺劇だけだ。
でもわたしは永遠を手放そうとするバケモノで。
彼は永遠を求めて成ったバケモノだから。
少しだけ、接点はあった。その接点での事だったのだろう、今のは。
だがその接点は僅かなものだ。
だからこれからは本来の仕事をこなすだけ。
互いともそれを分かっていたから、それはすぐに再開された。
校舎の向こう側の方に逃げながら、ふと不思議に思う。
わたしはなんで秋葉に攻撃しないんだろう。
迫る秋葉の爪をかいくぐり、右手を――ふるえない。
その隙に秋葉の足が私を蹴り飛ばす。
近くの木に叩きつけられながら、わたしは必死に身を隠した。
それでも紅い闇はゆらゆらと、わたしを追い詰めていく。
さっきの衝撃のための、口元から流れる血を拭う。
そして自分に言い聞かせる。
今の秋葉は秋葉じゃない。秋葉じゃないから、秋葉じゃないんだから――
呟き、繰り返す。
それなのに、わたしは秋葉になにもできない。
殺意に満ちた視線が走り、秋葉の髪が私に迫った。
さっき一度喰らったそれで、わたしはもう左手がない。凍りついたそれは、すぐに霧散して血を撒き散らしていた。
そして今度は右足。引き剥がそうと振るっても、後からどんどん巻き付くそれは、やはりわたしの足を砕いた。
痛みに歯を食いしばる。
残った左足だけで秋葉の視界に映らない様に逃げていく。
でもそれも単なる時間稼ぎで、いつかつかまってしまう。
このままでは死んでしまう。
その言葉で、カチリとなにかがはまった。
死ぬ。
死んでしまうんだ。
死んでしまったら――
志貴に会えない。
話も出来ない。
それは嫌。すごく辛い。きっと何よりも苦しくて悲しくて。
死にたくない。だってまだ志貴といたい。
ここにいたい。
わたしはまだここにいたい――
後ろから突き刺さる殺意に飛び退く。紅い髪が今居た所につかみ掛かり、すぐにわたしを追いかける。
秋葉を殺せば、きっと助かる。
そうすればまだ志貴と話ができる。志貴と会える。
簡単じゃない。秋葉に近づいてその胸に右腕をつきたてるだけ。
いままで何十回もやってきたそれを、ここで繰り返すだけじゃない。
秋葉はもうバケモノなんだ。だったらここで止めてあげなきゃ。止めなくてはいけないんだから。
それさえやればいい。やらなくてはいけないことなんだから。
秋葉さえ殺せばいい――!
振り向いて闇を覆う紅を睨む。
世界は応える。わたしの意志に。支配者が誰なのかを思い出し、その身をわたしにささげ尽くす。
紅は霧散し、そのカーテンの奥に秋葉がいた。
左足が地面を踏み抜き、右腕が秋葉を貫こうと空を走る。
もうすぐ秋葉は死ぬだろう。
わたしが殺すんだもの、それは確かだ。
わたしの望みをまもるために。
わたしがここにいるために。
そのはずなのに――
「貴方さえ居なければ兄さんは――!」
その言葉で、せっかくさっきはまったナニカが外れていくのが分かってしまった。
秋葉の胸に突き立てられるはずの腕が落ちる。
ため息をついて思った。
そんな淋しそうな顔されたら、殺せるはずもないじゃない――
ああ、もう、まったく。なんでかなぁ。
こんな損な役回り、むかしのわたしなら絶対しない。
……ああ、そうか。
わたしは志貴にこわされちゃったんだっけ。
それなら仕方ないかなぁ。
志貴も好きだけど、秋葉のこともけっこう好きだし。
それならこれでいいのかなぁ。
……結局わかったことだけど。
わたしは秋葉を殺せない。バケモノになっても秋葉は秋葉。
だから攻撃したく――いや、できなかったんだ。
だったらこうなるのなんて決まってる。
こうなるしか、ないじゃない。
「これで、いいよね、秋葉」
ごぷと喉にせり上がった血はとてもとてもまずくて苦しくて。
わたしは秋葉の服が濡れるのも構わずに、思い切り紅いそれを吐き出した。
それぐらいは、許してくれるよね――
静か過ぎる学校の中を走り続ける。
切れる呼吸が静かに響き、ただ一人だけの動者を包む。
走って走って。
ただひたすらに走って。
でも目指すところなんて一つでいい。
ここで一番空に近いところ。
アイツが憧れた、あの白い月に一番近いところ。
階段を走る。駆け上る。
一階二階三階と過ぎていく窓。
あと半分上れば屋上へのいける。
見上げた屋上への扉は、開いたままで夜風をかすかに校舎に招きこんでいた。。
最後のそれを駆け上る。
開いたままのドアから見た屋上。その真中。
ただ白い月を見上げ、静かに静かに佇むその姿。
ああ確かに。変わっていないとも。
ただ年月を経ただけで。
着ている物が反対になっただけで。
一層光に近いだけで。
あの一緒に月を眺めたときと、なにが変わっているのだろうか――
「いい夜だな、シキ」
かけた声はどちらが先か。だが些細な事だ。
どちらも同じ心境なのに、先か後かなんて関係ない。
「秋葉にも言ったが久しぶりだな――ああ、オリジナリティが無いなんて言うなよ?」
「言わないよ、そんなこと」
言うはずが無いとも。ただそれだけの言葉に、どれだけの重みがあるか知っていて。
流れる風は心地よい。
降り注ぐ光は水のよう。
そんな舞台の上で俺は八年ぶりの会話をしていた。
たった、数秒の。
それは唐突に終わってしまったから、たった数秒。
「あああああ……!あああああああああああああああああぁ!!」
「仕方ないんです。どうやったって、無理なんです」
ぶつりと、最後の糸が切れた感触。
あとは四季さまも堕ちるだけだろう。四季さまとは言えもう無理だ。
これで全て終わった。あとわたしに出来る事は待つだけだ。
ああ、本当。笑ってしまう。
「翡翠ちゃんは汚れちゃいけないんです。だから四季さま、秋葉さま。死んでください」
なんて、矛盾。わたしはこんなにも矛盾してしまっている。
「姉さん、何をしているんですか」
後ろからかかった翡翠ちゃんの声に、わたしは微笑みながら振り返った。
「なあに、翡翠ちゃん」
「……姉さん、もう一度聞きます。何をしているんですか」
翡翠ちゃんはわたしの顔をみないまま、うつむいて問い続ける。
「何って簡単なことよ。わたしが――四季さまと秋葉さまを殺させている。それだけなの」
びくりと震える翡翠ちゃんの身体。
それでもそれは、仕方の無いこと。
これを望んだのはわたしなのだから。
だから話そう、翡翠ちゃんに。帰って来た志貴さまと生き残った翡翠ちゃんが、わたしを深く憎むように。
これがわたしの罰だから――
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