月の光に染まる街 第一幕〜始まりあるいは復活〜
朝の光に、ゆっくりと瞼を開ける。
布団の中から天井をぼんやりと眺めていた。
「…………」
悪夢。
そう、悪夢だ。
俺は頭を振りながらさっきの夢を思い出す。
うだる様な暑さ。
遠くから、近くから聞こえる蝉の声。
泣き声。
紅く染まった腕。
風もなく、ただ暑かった。
「ぐ……」
あの時の感覚を思い出したせいか、胸の傷が疼いた。
しばらく布団の中で目を瞑ってそれに耐える。
……一分、
…………二分、
「ふぅ……」
ようやく収まった。俺は枕元の眼鏡を取り、かけながら布団から抜け出す。
もう秋も半ばに差しかかろうとしている言うのに、身体中に纏わりついた汗。
冷えた空気と相まって身体から熱を奪っていく。
まったく嫌になる。
当然の事ながらそこにいたわりとか、同情と言う感情は無い。
むしろ求めるほうがおかしいと言うべきか。
そこでふと思いだした。
まるでなんでもない事を、唐突に思い出すように。
その発想に、思わず苦笑してしまう。そんなに小さな事ではないはずだ。
今日でこの家を出る事は。
いつもの時間より数分遅れている。少し急がないと遅刻する、その程度だが。
「志貴、急がないと遅れますよ」
「今行きますー!」
台所の方から響く啓子さんの声。それの応えてから、部屋をもう一度見回した。
八年間使った部屋。それなりの愛着もあった。
ここを出て行くのは正直に言って惜しいが、仕方の無い事だろう。
あとは振り向く事も無かった。
玄関からの庭の風景。これも今日が最後だろう。
後ろの啓子さんの視線を感じながら、大きく深呼吸する。
「志貴、遠野の家では色々大変だろうけど、身体を壊さないようしっかりね。あなたは昔から人一倍体が弱いのだし……遠野の家は少し――変わっているから……」
「はい、気をつけます。八年間、お世話になりました。父さんや都古にもよろしく言っておいてください」
自分でもずいぶん冷めた態度を取っているな、としか思えない受け答えだ。
それでもこれでいいのだと思う。
結局この家の子になれなかった自分には、これでいいのだ。
「それじゃあ、お元気で」
その言葉だけを残して、俺は有間家を出た。
通学路の途中、空を見上げながら考える。
俺――遠野志貴は八年前死んだはずの人間だった。揶揄とかそう言うものではなく、それぐらいひどい怪我をしたと言う事だ。
原因は交通事故となっている。そう、そう言う風になっている。
とにかくその傷から、奇跡的にも回復した俺は、以来八年間、遠野家の分家である有間家に半ば養子と言う形で預けられていた。
俺は結局遠野家にとって、厄介者だったんだと思う。八年間、何の音沙汰もなかった事がいい証拠だろう。
それも仕方ない事だ。あれ以来、貧血のような眩暈を頻繁に起こすようになった。それが原因だったんだろうと思う。
その点、有間の家のみんなは本当によくしてくれた。
だが、それでも俺はこの家の子ではなかった。
ただそれだけの事。それだけの事だったが、どうしてもその線を越えられなかった。
だから俺は、遠野の家が突然今日までに戻って来いと知らせてきた時、あっさりとそれを受けたのだった。別のことで悩みはしたけど、それぐらいだけ。
……有間家に残した悔いと言えば、それぐらいかもしれない。もしかしたらほかにもあるかもしれないが、今思いつくのはそれぐらいだ。
「ふぅ……」
小さく息を吐く。広がる秋の蒼穹は、ただ蒼く広かった。無慈悲なぐらい、静かだった。
……実の事を言えば、俺は遠野家とは折り合いが悪かった。
あの窮屈な――もちろん広さとか、そう言う事ではなく礼儀作法にだ――家は、そのころ九歳だった俺にとって、つまらないものにしか思えなかった。
例外と言えば――秋葉達と遊ぶわずかな時間だけだった。
そしてその秋葉達こそが、俺が遠野家に残した唯一の悔いだった。
……
…………
あの事故以来、秋葉とは顔をあわせていない。兄妹と言うのに、顔をあわせるのさえあの事故以来許されなかった。
つまり秋葉は八年もの間、あの時代錯誤なまでに頭の固く、うるさい父親と一対一でいたわけだ。
そんな妹がこの兄をどう言う風に思っているのかは、大体想像がつく。
……間違ってもいい感情はいだいてないだろうな……
「はぁ……」
家を出てから二つ目のため息。
そして――
「この上時間もないなんて、冗談でも笑えないよ……」
三つ目の嘆息は、すぐにはずんだ呼吸音に変わった。
その約十分後――
俺は無事八時前に裏門の前に到着した。
あいかわらず人気がない周囲。そんな空気に俺の乱れた息がわずかに響く。
――と、もう一つ。
カーン、カーン――
カカーン、カーン――
音高く響く金属のぶつかる音。なんとなくそれは金槌と釘のように思えた。
音の響きとか、常識的要素とか――まさかマンガじゃあるまいし、剣のぶつかる音ではないだろう、それに音の高さが違う――から考えたのだが。
なにゆえに朝っぱらからトンカチとクギなのだろうか?ちなみにうちの用務員さんは、この時間に大工仕事をするような仕事精神旺盛な人ではない。
気にはなる。だが時間も迫っている。
結局自分は――好奇心に負けた。
向きを変え、音の発信源だと思う中庭へ。
その予想は当たっていたらしく、近づくごとに音は大きくなっていく。
カカーン、カーン――
カーン――
最後に一際音高く鳴った金属音を聞いた時、俺はちょうどその元を見つけていた。
小柄な背中が丸まって、柵に向かっている。
この時点で、大体は予想がついた。
だが、こんな――つまり用務員のおじさんの仕事である柵の修理などと言う仕事を、遅刻ぎりぎりになってまで続けているような――人物に、興味を覚えた。
近づいていって、声をかける。
「こんにちわ」
「っ!?」
その人は驚いた様子でこちらを振り返り――ついでにその親指の先に勢いよく金槌を振り下ろしていた。
「っ〜〜〜〜〜〜!!」
指を押さえて必死に痛みを堪えているようなのだが、こんな時どう言えばいいだろう?
そんな事をぼんやりと考えながら、俺はとりあえず「だいじょうぶですか?」と真顔で聞いていた。
「痛かったですっ!すっごくっ!」
どうやらそうらしい。まあ金槌で指を思い切り打って痛みを感じない人がいたら――もちろん麻酔とかそんなのは無しでだ――なかなかに怖い人だろう。もしくは無痛症か。
「こんな時にいきなり声をかけられたら驚くじゃないですかっ、遠野くんっ!」
「え?」
彼女の言葉に、俺は疑問の声を返す。
何故俺の名前を知っている?俺はそんなに有名じゃないし、第一この人とは初対面のはず。
「えっと……誰でしたっけ?」
「えええっ!?忘れちゃったんですか遠野くんはっ!」
彼女が驚いた様子でこちらを覗き込む。
と――
びしり
頭にかすかに走る痛み。これは――
「シエル……先輩?」
頭に浮かんだ名を呼ぶ。おそらく――いや、確実にそれが彼女の名だ。今ここで“頭に思い浮かんだのだから”。
案の定、彼女はそれに対して――つまり名前が違うとそう言う事を言わずに――あきれたように立っている。
「もう、先輩の名前も覚えてないんじゃいけませんよ」
「そうですね、どうもすいません……と、もう時間だ。先輩も教室に行ったほうがいいですよ」
そうは言っても、なかなかに厳しい時間なのだが。
俺は先輩に背を向けて、昇降口に走り出した。
背中に刺さってくる視線をできる限り気にしないようにしながら。
あれは暗示にかかったのだろうか?
自分からだんだん遠ざかっていく彼の背を見つめながら自問する。
……いや、あの眼はかかっていないような気がする。
なんと言うか……感触がない。
それに彼の眼は、わたしが暗示をかけてからも微かに――まるで慌てて大きな疑問を引っ込めたように――疑問の光を持っていた。
「……彼かもしれませんね」
それを考えただけで、思考が暴走してしまいそうになる。
そうこれは――間違いなく――殺意。
明確で、鋭敏で、圧倒的で――それ自体が凶器となりえる殺意。
だが――と、自分を押さえる。
確実ではない。まだ、彼が本当にそうだと言う保証はない。
確かに、いくつかの条件を備えているが、確実ではないのだ。
それなら自分は動かない。
これは何人もの運命を決定する、重要な――命が重要だとするのならばだが――選択なのだから。
半ば走りながら俺は教室へと階段を上っていた。
意志とは無関係に、足が勝手にそのスピードを保とうとする。
あの場所、あの人から一刻も早く、一メートルでも遠くに行こうとして。
昇降口に向かう途中。
脊髄を鷲掴みされたような寒気。
「……冗談じゃない」
うめく。そして思い出す。
あれは殺意だ。自分でもどうしようもないほど、押さえても溢れかえるような殺意。
それが俺の背中にひしひしとのしかかってきていた。
「……本当に、冗談じゃない……」
なぜ初対面の人間に、あんなのを向けられなくてはならないのか。
……理解できない。
だか、理解――いや予感できる事が一つ。
「……厄介な事になりそうだな、しかもとてつもなく」
重く響いた彼の声らしくないその言葉は、誰にも聞きとめられる事なく、まだあわただしい廊下に溶けた。
そんな寄り道をしつつ、俺はなんとか八時までには教室に入る事ができた。それどころか不思議な事に少し余裕がある。
椅子に座ってカバンを置き、背を伸ばした。
「おはよう、遠野くん」
「あ、うん、おはよう」
誰に声をかけられたのかも分からずに、返事しながら振り返る。
そこには声は聞きなれないでも、顔は見慣れた少女が立っていた。
「さっき先生が探してたよ?なんだか引越しとか言ってたけど、遠野くん引っ越すの?」
転い届は出したはずだったが……まあ書類の不備とか、そう言う取るに足らない事なんだろう。
「いや、そう言うわけじゃないんだけどね……元の家に戻るだけなんだよ」
「元の家って、あの坂の上のお屋敷?」
「そう。どう見ても場違いなんだけどね」
会話をつなぎながら、彼女の名前を引っ張り出す。
もう二言三言話したところで、やっと思い出した。
「わかった。じゃあちょっと事務室の方に行ってみるよ。ありがとう弓塚さん」
そう言うとなぜか弓塚はうれしそうに笑った。
「……覚えててくれたんだ、わたしの名前」
「クラスメイトの名前だからね。さすがに覚えるよ」
「その割にはなかなか呼んでくれなかったけどね」
痛いところを突かれたが、素知らぬフリをしておく。
ついでに見た時計によると、事務室に行っている時間はないようだ。
更に言うなら――
「よう、親友!こんなところで何をぼーっと突っ立っているんだ?」
何の外聞もなく大声を張り上げるコイツに捕まったら、行く時間なんてどうやってもひねり出す事はできないだろう。
それを何十回かの経験から予測した俺は、今から事務室に行く事を完全に諦めた。
そのいくつかの例を思い出しながら、俺は唐突にやってきた中学時代からの友人に向き直った。
「有彦……なんでここにいるんだ?」
「オレがここにいても何の不思議もないだろ?」
腕を組みながら有彦が何の疑問も持っていない様子で即答した。
その自信満々な笑みに、一言呟く。
「始業ベルの前にオマエが席についたところ、見た事ないんだけど」
「ぬ、痛いところを」
「で、その不良学生が一体どう言う風の吹き回しだ?」
うむ、と有彦は意味もなくうなずいた。相変わらず組んだ腕は解かないままだ。
「最近物騒だろう?だからさすがのオレも夜遊びを控えていたら、自然に早く目が覚めちまって。
いくらオマエでもニュースぐらいは見てるだろ?」
そう言えばそうだった。ここ最近は遠野家の事で悩んでいたからすっかり忘れていたが――
「たしか笑っちまうような俗っぽい文句だったな、連続猟奇殺人事件とか」
確かに。俗っぽいと言えばそうだが、だったらそうじゃない表現はどうなのだろうか?
…………無駄な事だと気づくのに、時間はかからなかった。
その間も有彦は勝手に話し続けている。コイツの場合、いつもどおりと言うのが正しいが。
「しかも被害者は若い女だけで、二日前にもう八人目がやられてる。そんでもってその全員が――」
びっと指を突き出し、迫力を――もちろん意味もなく――込めて続ける。
「全員バラバラで、犯人はその一部をつなぎ合わせてアソートを作るつもりらしい」
…………
俺は深々と嘆息した。嘆息するしかないと言うか、それぐらいの脱力感。
……有彦らしいと言えば有彦らしいが……
「有彦、その事件なら馬車道にいる、とある占星術師に頼みに行けば一発で解決してくれるだろうな」
「そうなのか?じゃあ早速警察に――」
「じゃなくて。本当はどうなんだ?弓塚さん」
脱力感が頭痛に変わる前に正確な所を知っておこうと思って、さっきから黙り込んでいた彼女に声をかける。
弓塚は突然声をかけられた事に少し驚いたらしく、反応が遅れた。
「……え?えっと、なんだっけ?」
「なんだか最近起きてる殺人事件の事だけど」
「うん、知ってるよ。襲われた人みんな著しく血がなくなっているんだって。だから吸血鬼殺人事件とか騒がれてるみたいだね」
有彦の話と、まったく違っている。
コイツはどこをどうひねってさっきの話にしたんだろうか?
そんな思考を打ち切るように、予鈴が鳴り響いた。
「有彦、さっさと席に行けよ」
「おう、じゃあな親友」
有彦は軽く手を上げて自分の席のほうに歩いていった。
「それじゃ、またね弓塚さん」
「あ、うん、またね」
同じ様に弓塚も席に帰っていく。その後姿がなにかうれしそうだったのは俺の気のせいだろうか?
二時限目の終了後、担任でもある数学教師が書類の書き漏らしがある事を伝えてきた。
すぐに済むので、急いで行って来れば間に合うだろうとも。
それならと俺は一階にある事務室に走り出した。
数分とかからず事務室に着き、何事もなく記入漏れの部分を書き足し、再び三階の教室へ。
そうして教師が入ってくるギリギリのところで俺は何とか教室に滑り込んだ。
そして昼休み――
授業終了直後、一斉に何人かが立ち上がり教室を出て行く。おそらく学食の連中なのだろう。それも限定のスペシャルメニュー狙いの。
俺は基本的に食べるものにこだわらない性質だったので、ぶらりと考え事をしながら教室を出た。
席はどうした、と言う考えもあるが、俺の場合は全然大丈夫だったりする。
そう言う核心があったので、その道のりも自然のんびりしたものになった。
学食は予想通り満員の混雑状態だった。
その中で特徴のある頭を探していく。
……と、いたいた。
席の混雑の分、食券売り場自体はそんなに込んでいない。適当に力うどんを買って食券を出し、出来立てのを受け取る。
俺はさっき見つけたオレンジ色の髪を目指してイスの間をすり抜けていく。
いつもどおり周囲の席が空いた有彦がそこにいた。
「有彦、隣いいか?」
「おう、遠野か。全然構わないぞ、オレとオマエの仲だからな!」
あいかわらずの騒がしさには閉口するところだが、とにかくコイツといて助かる事は多々あった。
――と、その隣に今朝見たばかりの姿。
「おや、遠野くんじゃないですか」
「あ……シエル先輩も一緒だったんですか」
「はい、乾くんとそこで偶然会いまして」
朝の事があるため、どうしても一歩ひいた形になってしまう。
その気配を彼女も感じ取っているようだが別段気にしている様子は無い。
朝の殺気も今は幻だったみたいに無い。だからといって完全に安全だとは言い切れないが。
それでも今は安全だろう。
「そう言えば遠野くん、乾くんと知り合いだったんですか」
「そうなんスよ!こう見えてコイツとオレは中学からの大親友!拳で語り合う強敵と書いて友と読むよーな仲ッス!」
「いつ語り合った、そんな物騒な方法で」
激しい頭痛を再び感じながら席につく。しかもなにやらハッスルしている様子で、その声も俺の頭痛も約二倍だ。
そんな俺に構わず、有彦は独り首をかしげていた。
「ん?遠野とシエル先輩って知り合いだったのか?」
「ええ、廊下で会ったりしますから。今朝も中庭で会いましたしね」
その疑問に答えたのはシエル先輩だった。それに俺が続ける。
「そう言う事。まぁ大して知ってるわけじゃないな」
「そうかそうか、やはりな。オマエはそう言うヤツだよな」
なにやら納得しているようだが、この際無視しておく。聞いてもロクな事にならない。
箸でうどんをすくいながら、かわりにぼんやりとこれからの事を考えてみる。
最初に秋葉と顔を合わせた時、なんて言えばいいだろう?ただいま、か?言える訳ないだろう、そんな事。
と言うかまともに顔を合わせてくれるかどうかさえ疑問だ。
嫌われてるだろうからなぁ……
「おい遠野、さっきどっか出てったけど、どこ行ってたんだ?」
結局いい考えなど浮かぶ事無く、現実に呼び戻される。
「ん……ああ、ちょっと事務室の方に転居届のミス直しに――」
行ってきた、と続けようとしたのだが、それは別の声にさえぎられる。
「遠野くん、転校するんですかっ!?」
意外なところで大声を出したシエル先輩は周りがこっちを向いている事にも気が付いていないようだ。
俺は頭をかきながら答える。
「転校はしないよ。ただの住所変更のための書類」
「と言う事は……一人暮らしですか?」
「いや、実家に戻る――と言うのが正しいのかな?あの坂の上の仰々しいとこに帰るわけだよ。実感とかはまったく無いんだけどね」
「そうですか……」
そう言うと先輩は何か考えている様子だった。なんとなく会話が繋がらなくなった。
そこに、タイムリーとでも言うべき声が響く。ただしそれは肉声ではない。しかも好転させてくれるわけでもない。
食堂に置かれたテレビから流れるニュースキャスターの声。それが淡々と――少なくとも俺にはそう聞こえた――あらかじめ作られた文を読み上げていた。
『今朝、最近連続して起こっている殺人事件の、七人目の遺体が発見されました。場所は――』
そのニュースに周囲がざわめく。無理もない事だ。隣町で起きていた殺人事件が、ついにこの町にまで及んだのだ。騒がずにいられるわけが無い。
一歩間違えれば、自分が被害者として読み上げられるかも知れないのだから。
「ついにこっちにまで来たか……」
有彦がめずらしく真剣な声で呟いた。コイツなりにこの事件の行く末は気にしているのだろう。
そしてそれ以上に、先輩はそれを気にしている様子だった。その眼つきが厳しい。
俺は無言で力うどんを平らげ、席を立った。
「じゃ、俺は先に帰るな。また後で」
「おう、倒れないよう気をつけろよ」
有彦の言葉に苦笑で答え、先輩を見る。
「それじゃ先輩、お先に失礼しますね」
「はい。またご飯一緒に食べましょうね」
一瞬で明るい笑顔に戻り、先輩はそう答えた。
最初と同じく、さっきの怖さなど微塵も無く。
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