勝手気ままなHONNY BEES  そのいち




夜もふけて、月も眠りにつく頃・・・
ある部屋での恋人たちの、静かな語らい


「ねぇ、祐一。」
「・・・なんだ?」
「実はね、明後日、お母さんの誕生日なんだよ。」
もぞもぞと、布団の中をうねうねしながら名雪は、祐一の顔を見た。
この角度からだと、祐一よりちょっと深く布団に潜った名雪の頭が、くいと持ち上げられた状態で。
この視線が祐一が一番弱いのだと、水瀬名雪は良く心得ていた。
だから・・・祐一、どきどきしてくれてるかな?
名雪はそう思った・・・いや、願った。
そうでなければ、とても嫌だったのだ。
大好きな人が自分を見てくれないのが・・・
しかし・・・

「な、なんだと!」

その想い人の顔は

「そんな!・・・秋子さんの・・・・秋子さんの!」
「うにゅ?祐一?」

まるで酷く何かに裏切られたような・・・
大切な何かを失ったかのような・・・
八年前のあのときと同じような顔を、再び彼女の前にさらしていた。

「誕生日があっただと〜〜〜〜!!?」

この物語は、このお馬鹿な一コマから始まった。

・・・・・・余談だが
祐一の声は、夜のしじまにとてもよく響いたそうな。


それもそのはず・・・
「・・・・・窓、開けっ放しだった・・・お。」

次の日ご近所様から、初めて苦情がきたというのは公然の秘密である・・・・。


9月22日・・・

「・・・ということがあったんだ・・・」
どこかやつれた顔の祐一が、親友二人(とその妹)を前にしていったのは、放課後の自分たちの教室であった。
「ふ〜ん。で、相沢君がこっぴどくしかられたのは良いとしても、明日が秋子さんの誕生日・・・世界って奥が深いわよね〜。」
香里が腕組をしながら、眉をひそめていった。
「??・・・なんで、水瀬のお母さんの誕生日ってだけでそんなに驚いてるんだ?」
「そうですよ。別に驚くことじゃないじゃないですか。」
「く〜」
秋子さんに、直に会ったことのない北川と栞が不思議そうに首をかしげる。
「甘い!甘い!だからお前はアホだというのだ!
まだ見ぬ得体の知れないものに、簡単な判断を下すなど言語道断!
もう一度、修行をつみなおしてこい!!」
「はっ!す、すみません!師匠!俺が未熟でした!!」
「・・・声優ネタはやめなさいよ。」
「??」を三つほど貼り付けた栞の頭を、優しくなでながら、いつもの通りの突込みを入れる香里。
「いい?北川くん。簡単に説明するから、よく聞いて。・・・栞も」
「あ、ああ」
「・・・はい」
得体の知れない恐怖(のようなもの)に怯える祐一を尻目に、二人は頷いた。
すると、やおら香里は、今だ「く〜」と寝息を立てている物体X(祐一談)を指差し、こういった。

「子も子なら親も親。」

「・・・・・・・・」
「さりげに酷いこと言ってませんか?」
「俺もそう思う。」

どうやら納得いったようないかなかったような感じである。
「まあ、百聞は一見にしかずというから・・・・そうね・・・丁度良いわ。」
香里は名雪と格闘する祐一に向かって提案した。
「明日、秋子さんの誕生日パーティをしましょう。」

波乱の幕開けであった。


9月23日・・・・

「じゃあ、会場の手配は任せてくれ。」
次の日、祐一は名雪を伴って放課後にはさっさと帰路に着いた。
香里と栞、そして北川は後からそろっていく手はずになっている。
「んじゃ、こっちも相沢の言った通り行動を開始するか。」
む〜っと両腕を高く伸ばして、北川が言った。
祐一の言ったこととは、自分の知り合いで秋子さんにお世話になっていたであろう人物たちを誘ってくることだった。
「ん〜どこからいくかな・・・」

  北川は適当に、あたりをぶらついていた。
「相沢の奴・・・・・考えたら、俺あいつの知り合い手ぜんぜんしらねぇし・・・」
・・・初めから気付かないところが彼らしかった。
「まあ、いいか。」
ついでに言えば、一つのことをいつまでもぐちぐちといわないところも。
とりあえず、相沢から渡されたメモ(『各々の出没場所チェック表』とかいてある)をみる。
「えっと、まずは・・・「天野 美汐」?2年か・・・」
「はい、私がどうかしましたか?」
「どわっ!」
北川は突然掛けられた声に、振り向くことなく後ずさった。

  「・・・失礼なかたですね。人の顔を見ていきなり驚くなんて。」
憮然とした表情の少女は、目を合わせて開口一番にそういった。
「・・・あ、す、すまなかった。君が相沢の知り合いの『天野 美汐』さん?」
「相沢さんのお知り合いの方でしたか。」
少女はふぅと一息吐くと、憂いの表情を見せた。
どうやら間違いのないようだ。
相沢のメモその2(『各々の癖と特徴とその対策と傾向編』)にも書かれている。
「何の御用ですか?」
「あ、俺は相沢の友・・・悪友で北川って言うんだ。3年。」
「これはご丁寧に・・・」
彼女は軽く頭を下げた。
『ここで、「おばさんくさい」と考えては駄目だ』とメモには書いてあるが・・・。
確かに・・・い、いや!そんなこと無いじゃないか。
「上品なこだなぁ・・・相沢とは段違いだ」
「相沢さんと比べられるなんて・・・それほど酷なことはないでしょう。」
「ははっ!確かに。」
相変わらず憮然として表情は読めなかったが、さっきよりは雰囲気が変わったような感じがした。
「おおっと、これを相沢から渡してくれと頼まれたんだ。」
「・・・招待状?」
「ああ、相沢が厄介になってるところの人が今日誕生日だからこないかってさ。」
「・・・・・」
ふっと沈んだような表情をする美汐に、北川は慌てた。
「あ、駄目だったら俺が伝えておくけど?」
「・・・いえ、秋子さんの誕生日というのなら、私も何かプレゼントを買っていこうかなと・・・」
「う〜ん。プレゼントか〜・・・そんなこと考えてなかったな〜」
「女性のお祝い事には、プレゼントは定番だとおもいますよ。」
「そうだな。」
今日の財布の中身を思い出した。
諭吉さんが一枚あったし、何か買っていこうか・・・と北川は考えた。
「じゃあ、天野さんは出席ということでOK?」
「はい。相沢さんによろしく御願いします。」
「了解。それじゃ」
「・・・どうも、ありがとうございました。」
「どういたしまして〜」
よし、一人目確保!

続くかな?



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