★かって気ままなHONNY BEES 〜ろく〜★

 

時として、人は悪魔にも天使にもなれるものだ。・・・そのとき斎藤は、確かにその教訓が正しかったことを確認したという。

 

「というわけで、われわれは水瀬家相沢祐一の部屋にいる。」

「むー!むー!」

「いったい誰に向かって話してるんだ?」

そこらにあったスティックのりをつかみ、北川は窓の外を見ながら実況中継ライクな話し方をする。

突っ込んだのは、久瀬だった。

「ここが、祐一さんの部屋なんですね?」

「・・・あせくさい」

「むむーー!むー!」

だんだん。

「あ、パソコンがあります。」

「ほう・・・これは、起動しないといけませんな。」

「そうだな。いったい何が入ってるかわからんからな。まずはここからだ。」

それを見ていた久瀬が、やめたまえと二人にいい、パソコンと二人の間にはいる。

「人の秘密を見るというのはあまりよくないと思うが。」

「そういうあんたが、スイッチいじってんじゃねーか。」

「いやいや、僕も彼の秘密というものに少々興味があってね。」

「むっふー」

「ええと、スペックスペック・・・へえ、P3の1.2Gに・・・げ、HDDにI○Mつかってやがる。」

もともとパソコンの知識に、ある程度理解のある斎藤が解説をいれる。

「おいおい・・・ゲフォ3のTi500ってなんだよ!なんでこんなにいいビデオカードつんでるんだよ!?おれなんかいまだゲフォ256proなんだぞ!」

もちろんゲフォといえば・・・・あのことである。

BIOS画面が消え、OSの起動に移る。

「・・・・98SEか・・・・無難だな。個人的には2000が好きなんだが。」

「そうだな。MEでは安定性にかける。」

斎藤の言葉に、久瀬が反応した。

どうやら彼も、多少の知識はあるらしい。

「最近では、2000対応のソフトもふえてるから一概には言えないが。」

「SEでなら、きっと古いゲームも出来るとふんだんだろう。」

人はこれを邪推という。

「と、言うことは・・・・ということなんだな?」

いままで、話についていけていなかった北川が、ニヤリと笑う。それにつられて斎藤も、なぜか久瀬も笑った。

もちろん、壁に縛り付けられ猿轡をかまされてる祐一をみて。

「言葉どおりだ。」

 

ぴしっ!

こちらは、リビング。

「どうしました?美坂先輩。」

「誰かに、あたしの存在意義の一部を奪われた気が・・・・。」

「・・・・?」

「いえ、なんでもないわ。」

こっちに残っているのは秋子と美汐、香里、そして佐祐理の四人だけであった。

「たとえるなら、風邪を引いたようなものですか?」

「・・・・いえ・・・もっとわるいです。たとえば、ヒロインが脇役に口癖を使われたような・・・・」

「はえ〜、ずいぶんと具体的なんですね〜」

三人の会話を、笑みをたたえながら聞いていた秋子は、俊想したあと、ぽんと両手をたたいて言葉をつなげた。

「そうそう、話題を戻しますけど。面白い紅茶ができたんですが、皆さんいかがですか?」

「紅茶ですか?」

「佐祐理は、ダージリンとか好きですけど。」

「私は、アールグレイです。」

「ええ、どれもあるんですが・・・・是非、皆さんに一度これを飲んでみてほしくて。」

彼女は背中から、湯気を立てるカップをとんとんと華麗に取り出した。

(・・・・どこにしまってたのかしら?)

(あ、あはは・・・いつの間に作ったんでしょうか?)

(なぞの多い人ですね。)

三者三様の反応を示す。

だが、思慮深いことで有名な彼女らはあえて口にだすなどという愚行はしなかった。

その代わりのささやかな抵抗として、秋子と紅茶を交互に見比べているのだが・・・・。

三人の・・・・計六つのひとみが、たった一対のひとみと交差した。

「さあ。どうぞ。」

『・・・・いただきます』

 

・・・・ニヤリ

どうやら、こちらはこちらで危機的状況であるらしかった・・・・。

 

 

「パスワード・・・か・・・・。」

そういって祐一をちらりと見る久瀬。

祐一は勝ち誇ったように顔を上げ、こちらを見る。

「さて、入るとするか。」

さらりと言ってのける斎藤。

「でも、パスワードがわからないぞ。相沢の口を割らそうと思っても・・・・あの状態だし。」

祐一はそっぽを向いて鼻歌を歌って−猿轡をかまされているせいでうたえていないが−いた。

「まあ、まあ。98っていうのは面白くてな。」

斎藤はまるで我が物ののようにキーボードをたたき始める。

小さなボタンを流れるように押してゆく姿は、長年パソコンをいじっていることを如実に示していた。

決して小手先三寸の腕ではない。特定のボタンを押すことに特化された習得者のそれである。

『規定のユーザー』

「これはノーパスの場合が多いから・・・・ほれ。」

ぱっと画面が変わった。懐かしいデフォルトの98SEのディスクトップがそこにはあった。

愕然と、ただ愕然という表情を顔に張り付かせた祐一が、モニターを見つめる。

「それに、NTFSなんか積まれてねぇから、ほかのユーザーからでも見えるんだ・・・っと。さあ、プログラムをご開帳〜〜!」

嬉しそうに。そりゃ天地がひっくりかえるような笑顔で斎藤が宣言する。

対照的に、祐一は、死刑を宣告された罪人のように首をがっくりと落とした。

「ええと、これとこれ。あとこの三つをあわせて・・・ひい、ふう、み・・・5つか。」

そこには健全(?)な男児のPCならかなりの確率でインストールされているだろう・・・やはりというか、なんと言うべきかわからないソフトが陳列していた。

「よりにもよって、濃いものが多いな。しかも名前を見ただけでわかりそうなものを・・・『彼女の明日は無い?』・・・知らないが・・・」

「ゆ、祐一さん・・・・」

「・・・・祐一・・・・」

「祐一君」

女性陣が冷たい目を向けた。

「こんなゲームする人・・・嫌いです!」

「・・・ごきぶりさん?」

「ボクのこと忘れてください!思い出さなくていいよ!っていうかむしろ忘れて!」

 

いやはや、愚直の理想というのはこわいものである。

「おいおい、そんなこといってやるなよ・・・・。」

「こんなモノをやるなんて人類の敵です!!」

「相沢はこんなゲームをしてニマニマと笑うほうじゃないとおもうぞ。・・・・というか、そんな相沢は想像できん。」

思わぬ援軍に祐一が、顔を上げた。

「相沢のことだからさ・・・・まあ、魔がさした程度じゃないのか?」

まるで、滝の様に涙をながしながら「友よ・・・・」(聞こえはしないが)といっている。

「・・・・・・・・・まがさした?」

どうやら祐一の涙にただならぬモノを感じたようだ。

「ああ。すくなくとも俺はそう思った。」

「そう・・・かも。」

「相沢って人を不幸せに出来ないタイプじゃないか。」

『・・・・・』

「きっとゲームの中でも不幸に出来ない奴だからさ。」

「いいじゃないか。相沢がこういうゲームしたって。」

少々納得がいかない顔をしてるがおおむね許しているようだ。

というか、信じたいんだろうな・・・こんな子達にここまで想われるなんて・・・・この果報者が。

まあ、結局は相沢の浪漫ってやつを彼女たちが受け入れてくれるかだけどなぁ・・・・と忘れずに付け加えておく。

 

「ぷぅ・・・・苦しかった。」

猿轡をはずされた祐一の一言目はそんな言葉だった。

「あ〜、その・・・・北川、助かった。」

「親友じゃないか当然のことだ。」

 

「というわけで、駄賃はとりあえずもってるソフト全部だ。」

「・・・北川・・・・お前ってやつは・・・・・よくよく考えてみれば、お前がこういうやつを俺に勧めたんだろうが!!」

「そんなことはしらん。俺はやってないかなぁ・・・・・とりあえず、水瀬にいうぞ。」

「くっ!・・・・こ、この野郎・・・・」

「いやあ、こんなときに友人っていいよなぁ、相沢!」

なんとも打算的な友人関係である。

 

だが・・・・・

 

このとき、一階ではとんでもないことが起こっているとは、誰一人として夢にも思っていなかったのだった・・・・・・

 

続く




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